「アイアンクロー 人生をかけて闘え」
     2024年4月5日公開
 このタイトルを見ただけで、プロレス・ファンならピ~ンとくる。右手を大きく開き、相手のコメカミをわし掴みして締め上げるアイアン・クロー(鉄の爪)という必殺技? かつて、これを得意にしていたフリッツ・フォン・エリックというレスラーがいた。力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木との闘いを〝ブラウン管〟で観ていた1人のオールド・ファンとしては、文句なく伝説のレスラーだ。それだけでなく、息子たちもレスラーとなりスターとなりなったが、不幸な最期を遂げたこともプロレス雑誌では読んでいた。しかし、それらは深く切り込むことはなく、あいまいな知識でしかなかった。この映画は、予定調和が多い〝四角いジャングル〟よりも、むしろ予想もできないドラマチックな一家のことを描いた作品。
 鍛え上げられた肉体をもケビン。弟たちの面倒見もよく長男的な人格だが、一家には6歳で亡くなった長男がいた(しかも、現実は五男も存在)。彼を演じているのはザック・エフロン。テレビシリーズ「ハイスクール・ミュージカル」など軽やかなでスマートなイメージの彼がムキムキに肉体改造!作品に賭ける意気込みを感じさせる。物語は、彼を中心に絶対的に信頼していた父に疑問を抱く様子、弟たちへの愛とその一方でレスラーとしての嫉妬などを、丁寧に描いている。
 衝撃的だったのは、四男のケリーがオートバイ事故で右足ひざ下を切断していたという事実。その当時は「大事故」という表現にとどまっていたが、一部では「切断」という情報もあったのは確か。しかし、その後に新日本プロレスに登場した時には、足を少し引きずりながらもパワフルなレスリングをしていたので「誤報」と思っていたのだが…。生活をしていくといのが根底にあるが、そこには「一家の期待を背負っている」という悲壮な選択があったのだろう。痛みと苦悩のために薬漬けになり、リングでの華やかな雄姿と対照的な最期を迎える。
 これまで詳細がわからなかった出来事やブルーザー・ブロディ、ハリー・レイス、リック・フレアなど人気レスラーのそっくりさんが出演しているなど、その頃のリングに興味のある人は必見。さらに、いまもプロレスに対する〝偏見〟があるなか(難しいかもしれないが)、人間ドラマとして評価できる一作でもある。
〈ストーリー〉1980年初頭。伝説的なプロレスラー、フリッツ・フォン・(ホルト・マッキャラニー)は、次男ケビン(ザック・エフロン)、三男デビッド(ハリス・ディキンソン)、四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)をプロレスラーとして鍛えあげ、「三兄弟」として売り出される。しかし、そのなかでも父が最も将来を期待していたデビッドは日本遠征中に急死、兄たちに続いてレスラーになったマイク(スタンリー・シモンズ)も含めて、彼らに次々と不幸が襲い、「呪われた一家」と呼ばれるようになる。
監督・脚本:ショーン・ダーキン、出演:ザック・エフロン、ジェレミー・アレン ホワイト、ハリス・ディキンソン、モーラ・ティアニー、スタンリー・シモンズ、ホルト・マッキャラニー、リリー・ジェームズほか。2023年/アメリカ/英語/132分/カラー・モノクロ/ビスタ
原題: THE IRON CLAW /字幕翻訳:稲田嵯裕里 / 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ

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