「湖の女たち」

   2024年5月17日公開

大森立嗣監督は「セトウツミ」のようなコミカルな作品も撮れば、「さよなら渓谷」のようなシリアスな作品も撮るオールマイティーな監督だ。原作小説、原作漫画の脚色に独特のものがあり、今回も長編映画デビュー作「ゲルマニウムの夜」(花村萬月原作)で見せたような湿度のある演出で、殺人事件をめぐる人間模様を描き出している。
ドラマは100歳になる老人の不審死を発端に始まる。介護療養施設・もみじ園の職員に疑いがかかり、ベテラン刑事の伊佐美(浅野忠信)と相棒の濱中(福士蒼汰)が捜査を開始。介護士の郁子(財前直見)らが捜査線上に浮かぶが・・・。
初めは2人の刑事の活躍で事件解決かと思わせるが、予期せぬ方へと物語が展開していき、事件を追って週刊誌記者の池田が登場するのを起点に、話のスケールが広がる。大森監督は、施設に捜査のメスが入るというドラマの設定の段階で、刑事と介護士の間に生じるドロドロした感情の摩擦を描いた。もともと最初から介護士を見下している刑事に対して、「うちはあんたらとは違う。介護の仕事にプライドがあるんや」と言い放つ郁子。郁子に扮する財前直見のまなざしには迫力がある。
原作は「悪人」「横道世之介」など、映像と相性の良い吉田修一の小説。大森監督と吉田修一のタッグは「さよなら渓谷」以来二度目で、実際の事件に想を得て書かれたと言う原作は、どこか健全な反骨精神を持っている。妥協の無いキャラクターとして登場する週刊誌記者、池田のファイトもまぶしい。が、特筆すべきは若手刑事を演じた福士蒼汰だ。劇中では、組織の腐敗を象徴するかのような卑怯者に扮していて、「図書館戦争」や「ちょっと今から仕事やめてくる」などで彼が演じてきた颯爽としたイメージからは、かけ離れた人物設定をなんなく怪演。その結果、〝女たち〟とタイトル中にあるのとはうら腹に、男たちの懊悩、虚無感が際立って安易なカタルシスを得られないドラマになった。

(2024年/日本/141分)

配給 東京テアトル・ヨアケ
©2024映画「湖の女たち」製作委員会

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