「人間の境界」
2024年5月3日、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば他全国順次ロードショー
祖国を脱出しなければならなかった人々と、そんな彼らと連帯する人々を描いた群像劇。背景にしているのはポーランド政府が2021年に、EU諸国への亡命を求める人々で溢れるベラルーシとの国境付近に、非常事態宣言を発令した出来事だ。出演している俳優達は、シリア人、ポーランド人、イラン人など様々で、実際にシリア国境周辺の難民キャンプで働いた経験のある俳優なども出演している。
物語はシリア内戦を生き延びたバシール一家が、ホッとしているシーンから始まる。彼らは祖国を脱出して、わずかな荷物を持ってポーランド国境を目指して旅して来た。国境を渡れば、ヨーロッパに入れると教えられていたからだが、ポーランドの国境警備隊は残酷な方法で、彼らを追い帰そうとする。
 スピーディーなカメラワークとクローズアップで、ドキュメンタリー風に仕上げられた映像が、画面を緊迫感で包み込む。亡命しようとする難民達は、国境警備隊によって傷つけられ、連れ戻される。携帯の電池も切れ、うす暗い森を手探りで突き進むシーンは恐ろしいが、有刺鉄線と警備隊がホラーの雰囲気を醸し出している中に、難民支援の活動家や精神科医のユリア、そして上からの命令に疑問を持つ警備隊の青年が登場し、ドラマにモラルの灯をともしていく。
最初は、何が起こっているのかわからないくらい早い展開だが、誤解を恐れずに言えば、シナリオにはゲーム的な面白さがあり、観客が自分の身に引きつけて映画を見ることが出来る仕掛けになっている。これは「ソハの地下水道」「オリヴィエ・オリヴィエ」など、感動的で面白い作品を作って来たアグニエシュカ・ホランド監督が磨いてきた技術なのだ。
本作は、公開当時のポーランド当局から激しく非難されたと言うが、それでもホランド監督は、観客に自分の考えを投げかけることで、討論の波を作っていった。おそらくその繰り返しこそが、歴史を作っていくのだろう。祖国を離れた人々の気持ち、暴力を受けた人物が抱える傷。各国から集まった俳優達のリアルな表情が訴えかける人間ドラマで、ぜひ戦争で難民が抱える問題について想像してみて欲しい。

(2023年/ポーランド・フランス・チェコ・ベルギー/152分)           

配給 トランスフォーマー
©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

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