2023年5月13日~25日
大阪松竹座
若手が「古典」に挑戦

開場100周年を迎えた大阪松竹座で、劇団創立75周年の松竹新喜劇を上演。さらに、劇団代表をつとめていた三代目・渋谷天外が勇退、藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎の若手5人を軸にした体制がスタートする節目の公演。二代目・渋谷天外が舘直志(たて・なおし)というペンネームで発表した「花ざくろ」と「三味線に惚れたはなし」の二本立て。
「花ざくろ」は1954年、藤山寛美、曽我廼家鶴蝶が夫婦役、植木店の主人を二代目・渋谷天外が演じて初演。たびたび配役を変えて現在まで上演されている劇団の人気作品。幸いなことに、寛美・鶴蝶コンビをはじめ。近年では三代目・天外と宝塚OGの順みつきバージョンなども観ることができた。植木の仕事に没頭している朴訥な夫をバカにしている妻。途中までは妻のわがままし放題とそれに何も言わない夫に、正直観る側もちょっとストレスが募るが、その度合いが上昇すればするほど、最後に溜飲も下がり、ホロリとする絶妙の構成。今回は寛美の孫にあたる藤山扇治郎と曽我廼家いろはが夫婦役に。植木店の主人を三代目・天外が演じている。400年以上の歴史には及ばないものの、創立75周年を迎えた新喜劇。歌舞伎は基本的に「改変」することなく、その時代の社会構造や階級社会をベースにした物語を上演し続けているが、新喜劇の場合は?この作品で訴えたいのは、人間にはいろいろな個性や魅力があり、環境や視点が変われば、まったく違う部分、才能が浮き彫りになるということ。それをわかりやすくするために、極端ともいえる夫婦関係を背景にしたのだろう。そうしたことで見ると、いささかの「改変」があってもいいし、むしろ観客に伝わりやすいのではないかとさえ思う。具体的な例をあげると、妻が愛人について「殴ったり蹴ったりするところも好き」といったような内容のことを言うこと。家庭内暴力が社会問題になっているなか、こうした「設定」は不可欠なのだろうか。例えば、夫に比べて「彼(愛人)がなんでも決断して、行動するのが素敵」と言い換えても、それほど無理はないし、観客には抵抗感がないのではないだろうか。若手中心に軸を移した初めての公演を、あえてこの作品で挑む心構えはおおいに評価できるが、これはやはり「中年以上の夫婦」の物語のほうがしっかり腑に落ちる。そんななか、心強いのは円熟したベテラン勢の存在。天外の役柄が「劇団の今後」を象徴しているのをはじめ、91歳の高田次郎もまだまだ元気。妻の両親を演じた曽我廼家文童、井上恵美子は最後に花道を歩く若手2人を舞台上手から見送る様子は、うれしさと少しの不安が入り混じる親の心情をさりげない仕草で表して味わいがある。こうした若手とベテランとの間を繋ぐのは中堅たち。時間をかけて劇団の芸、空気感を習得してきた彼ら彼女たちの存在こそ貴重で、さらなる「光」を当てて欲しいものだ。
「三味線に惚れたはなし」は1953年に初演された理屈抜きの明るい時代劇。題名どおり、その当時は三味線の音色がまだまだ「日常」に近かったのだろう。主人公が披露する新内の一節が登場、ほんの少しではあるがその時代と物語の骨子になる重要な場面。役者ではないならば、自らが生きている時代の空気や趣味、音楽を吸収しているのは当たり前。しかし、歴史を担う劇団のメンバーとあれば…、ほんの少しの場面でも「「手習い」がうかがえるだけに、さらなる唄や舞踊の修練を期待したい。
藤山扇治郎と曽我廼家いろは
(C)松竹

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