「カヅラカタ歌劇団の奇跡」
著・鈴木隆祐(駒草出版)
税抜き1600円
ある男子校に「男ばかりの歌劇団」があるらしい…。そんな情報は昔から聞いていた。拙著には、宝塚歌劇団に実在した男子部を描いたノンフィクション「男たちの宝塚」があるだけに、ずっと気になる存在だった。しかも、そのことを話すと、「テレビドラマになりましたよね?」と言われることがよくあった。実際には、舞台化(「宝塚BOYS」)はされたが、映像にはなっていないのだが、説明するのもなんだし、「えぇ~」とお茶を濁すこともあった。ちなみに、それは、「ハイスクール歌劇団☆男組」(CBC制作、2012年に単発ドラマとして放送)のことで、さすが「カヅラカタ」という名称はちょっと…ということ、違う名称になったのだろう。
この本には、愛知の名門男子校、東海高校に2003年に誕生したいきさつ、これまでの足跡などが詳細に書かれている。6月にこの高校で定期的に行われている「サタデープログラム」という行事で、育ての親の久田光政(東海大講師)、そして著者の鈴木隆祐による講座があるので、映画会社に勤める友人と出席。両氏にも挨拶することができた。そうしたこともあって、がぜんこの歌劇団が近い存在にも思えるようになり、この本も一気に読んだ。
ふとした思いつきで始まったようだが、それを20年間、コツコツ実績を積み上げていったあたり、生徒たちの学業にも通じる真剣な取り組みが随所にうかがえた。医学部への進学率の高さでしられる高校だが、近年では歌劇団の卒業生らが芸術、エンタテインメントの道を歩み、頭角をあらわしていて、こちれでも注目される存在になってきたいるようだ。
著者の鈴木氏には教育、ビジネス関連の著書が多く、いわゆる「タカラヅカ大好き」ジャーナリストではなく(取材をしていくうちに、そうなっているようだが)、このジャンルの取材者にありがちな「オタク的」な視点ではない、冷静で、広い視野からの分析、文章を綴っていて、勝手にシンパシーを感じた。そういった観点で、この歌劇団に反発とはいかないまでも、黙認?冷ややかに傍観している人々の声を拾った一章を設けて欲しかった気もした。
ぜひ、歌劇団ファンや関係者だけでなく、教育の在り方に興味がある人にも読んで欲しい1冊だ。
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