「ほかげ」 塚本晋也監督インタビュー

    2023年11月25日から全国公開。12月1日からシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマにて順次公開。
 終戦後の日本を描いた新作「ほかげ」が公開される。第二次大戦を実際に体験した世代が、少なくなって行く中、懐古趣味やヒロイズムに走らず、戦争の実相に迫る塚本晋也監督。「闇の部分と光の部分の対比が、自分の映画のテーマでもある」と語る鬼才は、戦争という題材にどうアプローチしたのか、伺った。

【Q】映画が始まってすぐ、趣里さんが幅広い役を演じられる俳優さんなんだ、と感じました。居酒屋の女将というのは表の顔で、実は大変な苦労をしている女性という設定です。映画前半には趣里さん演じる「女」が、殴りかかられるアクション・シーンもありました。ああいうシーンにはスタント・コーディネーターは入っているのですか?
【塚本監督】 「ヒルコ 妖怪ハンター」の頃から長くお世話になっている方に、ああいう危ない可能性のあるシーンは、動きも決めてもらいます。倒れた先にマットを敷いたりとか、危なくないようにしてもらいました。

【Q】趣里さんが「ブギウギ」に出演されることは出演依頼をした時点でご存じでしたか?
【塚本監督】この映画を撮り終わった後あたりか、やってる途中のどこかのタイミングでオーディションを受けておられて、まだ、決まったって言うのは全然知らなかったです。

【Q】「ほかげ」というタイトルですが、灯火の影というだけでなく、いろんな意味にとれますね。本作でも暗い部屋の中で、趣里さんの眼だけに照明が当たるアップが、シャープな心理描写になっていました。
【塚本監督】 闇の部分と明るい部分の対比っていうのが、僕の映画のテーマでもあります。照明は大事なところだと、相当にこだわりがあるので、照明の方にきちんとイメージを伝えて、そのように手を動かしてもらっています。

【Q】 「ほかげ」は戦後の闇市と、趣里さん扮する「女」の居酒屋が主な舞台です。その中でも居酒屋の奥の部屋に、焼け野原になった町のミニチュアが置かれている、という抽象的なシーンがありましたね。
【塚本監督】 あのミニチュアは妻が作りました。手先を使った細かいことが得意で、「なにか関わりたい」と言ってくれたので、大事な仕事を1つ任せる、これを思いっきりやって・・・と言いました。彼女はまず空襲の焼け跡の分厚い写真集をじぃっと見て、図面を描いて、じっくり時間をかけて作ってくれました。あのシーンは「女」が絶望するシーンです。病気の症状が出て絶望した瞬間に、部屋の中の焼けただれた物を映しながら、効果として見せた方が、本当の空襲の焼け跡を見せるより、戦争の実感とか焼け跡の恐ろしさがかえって伝わるだろうと思ってミニチュアにしたんです。

【Q】 本作にはたくさんの人物が登場しますが、キャラクターが立っていて、1人ひとりの性格までしっかり描かれています。ところがセリフは意外なほど少なくて、みんな体の動きで表現してるようなところがありますね。
【塚本監督】 もともと僕はセリフがいっぱいあるものが好きじゃないんです。ただ、全然描かないと、もともと何だったっけ?・・・と、自分でも分からなくなります。だから、最初は無茶苦茶たくさん書いているんです。1回たくさん書いて、自分でわかった上で、要らないセリフを消していきます。たとえば子供のシーンは、映画に映る前に彼に何があったかまで、プロットの段階で細かく想像して書いていきました。1度、そこまで想定して書いていると、けっこうそれを省略しても、全体から感じられるようになる。映画の驚き、と言うか映画の奥深さです。趣里さんにも、多くを語らずにじぃっと黙って表現してもらった。観客に感じてもらうためです。その分、演技する俳優さんは大変ですが、細かく動きを指示したりしないで、のびのびやってもらいました。特に、趣里さんと森山未來さんには、身体表現の力があるところを見込んでお願いしました。なるべく俳優さん達の熱が途切れないように、長回しでいろんな角度から撮影して、後で編集していきました。戦争に関しては〝やられた〟だけでなくもう一方で〝やっちゃう〟恐ろしさというものがありますよね。僕は映画で両方を均等に描いて、戦争の恐ろしさを描いていくつもりです。

【Q】 話は変わりますが、塚本監督はマーチン・スコセッシ監督の作品に、俳優として出演されたご経験がありますね。その経験の前と後で、映画の作り方に変化はありましたか?
【塚本監督】 マーチン・スコセッシ監督は尊敬している監督です。彼の撮影現場に行って感じたのは、映画を作る現場、映画を作る人は、いい意味で同じなんだ、ということです。ただ、規模は凄くでっかい。スコセッシ監督の周囲がもう、イベントでもやってるみたいだったけれど、やっている雰囲気とか順序、その他は、僕らがやってる感じと全然変わらなかった。だから、当時は僕もでっかい撮影現場に居るという緊張感はありませんでした。僕も、俳優さんに自由にやってもらうんですが、スコセッシ監督も現場では、俳優に〝これをやったらいけない〟とかは一切無かった。いっぱいテイクを撮って、かなり厳密な判断で要らない芝居を落として、必要な芝居をピックアップするんです。自分達が小さい規模で撮っているのと同じような感じ。むしろそれに勇気づけられました。「これでいいんだ」ってね。
(2023年11月13日シネ・リーブル梅田で取材)
〈物語〉(終戦後、半焼けになった居酒屋で、その日暮らしをしていた「女」の店に、ふらりと訪れた若い復員兵。戦争孤児の少年も加わって、3人の疑似家族が誕生するが・・・。
※塚本監督インタビューは、高橋さんも別の視点からアップしています。あわせて読んでください。

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