「ほかげ」塚本晋也監督インタビュー
塚本晋也監督インタビュー

映画「ほかげ」
2023年12月1日から大阪のシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマほかで公開

 14歳のとき8�カメラを手にして自主映画を撮り始め、17歳で撮った「電柱小僧の冒険」でPFFグランプリ受賞。翌年の「鉄男」でローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。ここで一躍世界に名をとどろかせた天才監督。塚本晋也、63歳。その他の「鉄男」シリーズ2本を入れて全19本の作品を発表し、自ら俳優も勤め、マーチン・スコセッシ監督の「沈黙」に出演したのも記憶に新しい。同じ自主製作で映画界入りした大森一樹、石井岳龍らの監督とは違う独自の映画道を往く作家といえよう。本人も「変な映画ばかり撮っていますから…」と苦笑する。
 塚本映画はしかし、独自の特撮路線を経て、「六月の蛇」(2002年)で一度変遷し、黒沢あすか主演の女性映画を撮ってびっくりさせ、さらに大岡昇平原作の「野火」の映画化に挑戦して塚本監督ファンを驚かせた。「『六月の蛇』は当初SMサスペンスを狙った作品だったが、黒沢あすかさんの演技力もあって、ぼくの女性賛歌が前に出る映画になった。『野火』は市川崑監督の名画があったが、ぼくは昔から大岡原作が好きでやりたいと念願していて、時代のにおいがきな臭くなってきて作るべきだと思った。第二次大戦のフィリピン戦線を通して戦争と人間の極限状態の中に自分を置いて見つめようと。次の時代劇『斬、』は、人を殺めることの恐ろしさを描きたくて撮った」
 そして、新作「ほかげ」は、「野火」「斬、」に続く3部作としてメガホンを取っている。塚本監督は過去の忘れられない記憶として子どものころ、東京の渋谷駅で見た風景がある。「そのガード下に並んだガラクタやアコーデオンを弾く傷痍軍人さん。その風景は戦後すぐの闇市の名残を感じさせた。そのガード下を包み込む闇の奥をのぞいてみたいという気持ちがずっとあった。『鉄男』を作りながら、『闇市』への思いが平行して胸の中にあった」
 戦後すぐの闇市近くの半焼けの居酒屋に独り住む女(趣里)がいる。中年の男(利重剛)の世話で密かに売春をして生活している。そこへやって来る戦争孤児(塚尾桜雅)の目を通して復員兵(河野宏紀)、テキ屋の男(森山未來)らと短い時間を過ごし、すれ違う刹那の時間が描かれる。NHK朝ドラ「ブギウギ」で注目を集めている趣里が、布団1枚の部屋でうなだれて生きている女を演じているが、戦争孤児らに優しく接し天使のように見えて、同時に時代を呪う激しい心情を胸に秘めている。
 「趣里さんと森山さんは以前から一緒に仕事をしたい俳優で、出演を依頼してすぐにOKをもらってうれしかった。趣里さんは戦争で全てを失ってしまったが、心の中では必死に生きようともがいている。彼女の強い言葉があの時代の悲しさを奏でて、役に憑依していた。すごい女優さん。森山さんも戦争で片腕をなくし絶望の中で何かを探している元兵士の怨念を抱える男を見事に演じてくれた。孤児の塚尾くんはとても瞳が素晴らしく、彼にこの映画の希望を託した」
 「世界の動きが怪しくなってきた今、どうしても作らずにはおれなかった、祈りの映画になります」。ウクライナの戦争、パレスチナの子どもたちの話になって「もう1本、作りたい戦争映画がある」と付け加えた。
 復員兵を演じた河野宏紀は22歳の俳優だが監督として作った新作「J005311」がPFFグランプリを受賞。塚本監督の次世代代表だろう。「ラーゲリより愛を込めて」などの名子役、塚尾にも注目だ。また大森立嗣監督が「ほかげ」に「やさしそうな男」の役で出演している。利重剛は監督でもあり塚本監督の親友という存在だ。

写真は「次の世代が心配でこの映画を作った」と話す塚本晋也監督=大阪のシネ・リーブル梅田
※塚本監督インタビューは、岩永さんも別の視点からアップしています。あわせて読んでください。

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