「劇場版 再会長江」
2024年4月12日公開
中国大陸には何度か訪れたことがある。とはいっても、ずいぶん昔。最初は1987年、日中合作映画「敦煌」(1988年公開)のロケ取材で、中国北西部の甘粛省へ行った。いまでは日本からの直行便がある敦煌だが、当時は北京から蘭州へ飛行機を乗り継ぎ、そこからは小型バスで嘉峪関(かよくかん)近くに作られた巨大セットへ片道4日かけた長旅。渓谷や砂漠を抜けるなか、雄大な黄河(5400キロメートル)の流れを見た記憶がある。中国にはそれより長い長江(6300キロ)がある。
この映画は、個人及び関連の総SNSフォロワー数は約1000万人を超え、 中国全土でナンバー1のインフルエンサー(Weibo 旅行関連)として活躍している竹内亮が監督をつとめ、10年をかけ、長江の源流、最初の一滴を求める旅を描いたドキュメンタリー。随所に登場する大自然の美しさも満喫できるが、それよりも〈ヒューマンドキュメンタリー〉として楽しめ、感動する。
竹内監督はこの映画の10年前、NHKの番組で長江を撮影、その時に現地で暮らすさまざまな人々と出会った。その後、南京市に移住した竹 内監督が2021年から2年かけて再び、長江をたどる旅に出て、その途中に友人たちよ再会する様子が描かれていく。そこには、人と人との触れあい、友情と同時に、中国における10年の急激な変化、変貌が浮き彫りになっている。
例えば、「バンバン」と呼ばれる荷物担ぎを仕事にする男性。かつては、貯法された仕事も、交通網の発展などでだんだんと仕事も従事する人も減っている。さらに、深刻なのは仕事に対する差別意識。観光バスの運転手とバンバンが殴り合いをする様子もとらえられている。また、いまはダム建設のために水没してしまった村を訪れる。10年前に「家族を支えるために女性兵士になる」と話していたその村の少女は、兵士にはならずに結婚、出稼ぎに出ていた。10年前には想像もできなかったスマホでの近況を伝え合う監督と少女。別れに時に、監督が母親に当たり前のように握手をしようとする監督に、「握手は慣れていなくて」と手を差し伸べようとしない母親。温かい交流に、つい忘れていた「異文化」「境界」とういう現実を再認識させるリアルなシーンだ。
また、映画「失われた地平線」などで理想郷というイメージのあるチベット族が暮らすシャングリラにも。10年前にそこで、観光客へ「羊と一緒の写真を」と声掛けする仕事をしていた内気な少女(写真)と出会う。「民宿を経営したい」という夢を語っていたが、彼女はそれを現実にした。再会した瞬間にハグをする変貌ぶりに驚く。実は10年前に、監督たちは彼女と母親を大都会・上海に連れていったという。その時、彼女の叔父や中国人カメラマンが大反対をしたというを笑顔で話すのだが…。彼女にとってそれはよかったが、大きなカルチャーショックを受けたことは想像できるだけに「両刃の剣」の危うさがあっただろう。内気を克服し美しさに磨きがかった彼女。「覚えている順番は阿部力(上海旅行をアテンドした俳優)、カメラマン、監督の順」と正直に話し、涙を浮かべる光景は〝純愛ドラマ〟?でもある。
こうした再会を続けて、ようやく長江の1滴に近づいた。ドラマなら、監督が「やった!」となるのだが、そこがドキュメンタリー。 過度な盛り上げがない、ラストがさわやかだった。
〈あらすじ〉中国の母なる大河・長江。上海、南京、武漢、重慶、雲南、チベット高原まで、広大な中国大陸を横断する、全長 6300 キロのアジ ア最大の大河だ。日本人監督の竹内亮は、10年前に NHKの番組で長江を撮った時、一つの後悔があった。それは北極・南極に 次ぐ地球第三の極地と呼ばれるチベット高原にある「長江源流の最初の一滴」を撮れなかった事。あれから 10 年、日本から中国 南京市に移住し、「長江沿いの民」の1人になった竹内は、2021年から2年かけて再び長江 6300 キロを走破する。旅の途中で 10 年前に撮影した友人たちと再会しながら、一本の大河を通して中国の 10 年の変化を見つめ、今度こそ「最初の一滴」をカメラに 収めるべく、長江源流をめざす。
©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ 監督・竹内亮、ナレーション・小島瑠璃子、プロデューサー・趙萍、張楠、 助監督・王可可、撮影・徐亮、編集・蘇焕 宣伝:大﨑かれん 本谷智子 製作:ワノユメ 配給:KADOKAWA ©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ。