「中村仲蔵 歌舞伎王国 下剋上異聞」
   2024年2月6日~2月25日  東京建物Brilla HALL
         2月29日~3月1日 広島文化学園HBGホール
         3月7日~3月10日 御園座
         3月15日~3月17日 東京エレクトロンホール宮城    
         3月22日~3月24日 キャナルシティ劇場
         3月27日~3月31日 SkyシアターMBS

 「中村仲蔵」(中村中蔵改メ)。いま流行りの「ブギウギ」「ウキウキ」といった〈オノマトペ〉(繰り返し語?)のような語呂がよくて覚えやすい名前と演目。そういうこともあってなのか、以前から彼を主人公にした落語、講談は意識的に触れるようにしている。また、2022年にはテレビドラマ化(主演・中村勘九郎)もされたが、今回はその作品と同じ源孝志が脚本を担当、また違うアプローチで舞台にした。演出は蓬莱竜太。大都市で上演されるなか、関西は新たに誕生したSkyシアターMBSの記念すべきこけら落とし公演になった(劇場については、別項で紹介)。
仲蔵みずからが綴った「月雪花寝物語(つきゆきはなのねものがたり)」などを基にした生涯は、歌舞伎界で受け継がれる家系、門閥という大きなハードルを突き破った波瀾万丈。自らの努力と創意工夫によって、名題(なだい)にまで駈けあがっていった姿は、痛快でもある。なかでも、「仮名手本忠臣蔵」の「山崎街道二つ玉の段」で演じた斧定九郎は、それまでの型、姿形を一変させた最も有名なエピソード。落語、講談ではこの部分を主軸に語っている。
この舞台でももちろん、劇中劇のクライマックスとして描かれていて、歌舞伎の一場を観ているような気分にもなる。このほか、早口の長セリフで知られる「外郎売(ういろううり)」。市川團十郎を頂点にする成田屋のお家芸として演じられていて、京都・南座の「吉例顔見世興行」での「市川團十郎白猿襲名披露公演」では、10歳の市川新之助が演じて盛大な拍手を受けた。それを、仲蔵に扮した藤原竜也が見事に演じた、それも、多くの場合、「あまり動かず、朗々と語る」型なのを、動きも入れてエネルギッシュに語る解釈で
新鮮だった。そうした歌舞伎へのリスペクトを込めた演出、演技が楽しめる一方で、彼と同様に、梨園に生まれるなかった役者たちが懸命にはいあがろうとする姿も詳細に描き、ある意味で「中村仲蔵」異聞としても楽しめた。
舞台上手(向かって右)にはパーカッション奏者がいて、ドラムやシンバルといった〝洋楽〟をもちろんのこと、拍子木が「ちょ~ん」と響き渡り、板に拍子木を打ち付ける〈ツケ〉など歌舞伎独特の効果音も奏でる。まさに、和と洋をコラボした作品を象徴している。随所にデフォルメした表現、様式美による歌舞伎の名場面を再現しながら、その〈晴れの舞台〉に隠された愛憎が交錯する人間模様は、現代劇通じるリアリティーを持って描いている。

注目したのは、この劇場の特徴的な舞台形式といえる舞台左右にある「わき花道」。歌舞伎や商業演劇を上演する舞台には、「花道」が常設、もしくは作品によって設けられる。対面する客席と舞台を直角に繋ぐもので、ここを通ることで観客の視線を一斉に浴びる役者冥利につきる花のある道だ。歌舞伎など主役と脇役の役割が比較的はっきりと分かれている芝居では、これによって主役級をさらに目立たせる効果がある。一方、「わき花道」という構造はあまり見かけることがないが、花街の歌舞練場や公共会館などには存在する。ただし、それらは客席からは上がれないほど高さの落差がある。ところが、この新劇場の「わき花道」は客席と同じ高さで作られているのが大きな特徴。これによって、場内を駆けめぐるダイナミックな演出が可能。また、「花道」ほどには突出して脚光を浴びないものの、自然な雰囲気で登場し、本舞台上の物語に加わることができる効果がある。今回の作品では、仲蔵が〝ぶらり〟といった自然体で現れるし、母子の別れも〈わき花道〉で演じられるのも程が良い。〈わき花道〉の効果をアピール、門出へのエールをおくっている。
エールというともう1つ。仲蔵が演じる「三番叟」。正月やこけら落としなどめでたい時の「祝舞」として演じられることが多い演目を、あえて終幕近くに登場させるのも洒落た趣向だった。
〈あらすじ〉江戸時代中期、舞台は歌舞伎の黄金期を迎えようとする芝居街・日本橋堺町。江戸三座と称される劇場や芝居茶屋がひしめくこの芸能の町に、一人の孤児が運命的に流れ着く。中村座で唄方をつとめる男と、振り付けを教える女の夫婦に養子に貰われたこの孤児こそ、歌舞伎史上不世出の天才役者と呼ばれるようになる初代中村仲蔵(藤原竜也)である。養母の厳しい稽古で踊りの才能を開花させた仲蔵は、役者として舞台に立つ夢を膨らませるが、血筋がものをいう歌舞伎界の高い壁が立ちはだかる。しかし芝居に取り憑かれた若者は、無謀にも最下層の大部屋役者から成り上がる下剋上の道を選んだ。歌舞伎界の頂点を巡って裏切りや策謀が渦巻く舞台裏の抗争に巻き込まれつつも、ひたすら芸の道を疾走する仲蔵。しかし彼を待っていたのは苛烈な“楽屋なぶり”だった

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA