「漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々」
2024年3月1日公開
最近、一気に読んだ本がある「M-1はじめました」(東京経済新聞社)。著者の谷良一氏は、吉本興業でお笑い芸人たちのマネージャーや劇場、テレビ番組プロデューサーを経て吉本興業ホールディングス専務などを歴任した人物。面識があり、つねに冷静クールな印象を持っているが、こんなに〝熱い人〟だったのに驚いた。2001年に創設され、今では漫才コンテストの最高峰にある「「M-1」。その人気に「あれは自分が作った」と吹聴する人物もいるなか、谷はこれまで明かさなかった経緯、苦難の道を綴ったもので、美談だけでなく、遠慮なく?特定の人物さえ切り込む鋭い描写で、これを読むと彼と島田紳助によって始まった企画だったのがよくわかる。
その「「M-1」の審査員もつとめているナイツ・塙宣之が監督した、おもしろくて悲哀もあるドキュメンタリー映画。東京には、「一般社団法人 漫才協会」(2023年12月現在、124組、215人が所属)があり、落語家以外の漫才師、「イロモノ」と呼ばれるピン芸人らが所属。2002年に会長に就任した塙が、協会の活動拠点になっている浅草フランス座演芸場東洋館(通称・洋館)に出演している、いろいろな芸人たちの生きざまを、温かい眼差しでとらえている、東京に行った時に時間があると新宿・末広亭などには行き、落語や途中に登場する太神楽や奇術を楽しんでいる。ある時、最前列のど真ん中の席しか空いておらず、女性奇術師と身を合わせないようにしていたのだが…。案の定、見つかって舞台に上げられたこともあった(笑い)。とはいえ、この映画に登場する芸人たちをほとんど知らなかった。
冒頭は、電車にひかれて右腕を失った大空遊平。夫婦漫才として知られた存在だったが、妻と離婚し解散。1人で舞台にあがっていた時に事故にあった。それでも、努めて明るく振舞い舞台復帰に向けてリハビリに励んでいる姿には、執念さえ感じるのだ。この他、39年間コンビとして活躍していた相方を亡くしてもピン芸人として舞台に立ち続けるホームランたにし。はまこ・テラ、というコンビは離婚後も〝夫婦漫才〟として活動している。これだけなら、特に関西人はミヤコ蝶々・南都雄二、京唄子・鳳啓助を思い出すが、この2組は漫才を仕事としてコンビを継続した。それが、はまこ・テラの場合はいまも一緒に暮らし、1つの布団で寝ているというのだ。カメラはその自宅にも潜入、これそのものが立派な持ちネタになるだろう。この他、20年以上も会費を払い続けているものの、ほとんどの人が見たこともない人物、塙が彼の自宅を訪れて、その訳と現況を聞く場面はスリリングでもある。登場する芸人たちは、一部を除いて「M-1」」とは無縁で、頂点として目指しものが違うのだろう。まさに人生いろいろ。
小泉今日子がナレーション、ナイツ・土屋伸之は映画にも登場して解説する。「関東では、落語家は師匠、漫才は先生と呼ぶ」(現在は、師匠とも呼ぶ)などの豆知識にへぇ~。ただ1点、「関西には吉本興業と松竹演芸があり」というのは松竹芸能の誤りであり、残念。
2024年製作/100分/G/日本
配給:KADOKAWA

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