唐組・第73回公演
「泥人魚 歩いてる ヒトか魚か 分らぬ女が…」
 
 日が暮れた神社や公園に、ぽっかりとシルエットが浮かぶ〈テント劇場〉。演劇というのは劇場へ向かうところから始まるのだが、この〝仕掛け〟はさらに、その感情を盛り上げる効果もある。寺山修司が率いる劇団・天井桟敷が1969年にテント方式の天井桟敷館で移動演劇を始めたのを皮切りに、1970年には劇団・黒テント(主宰・佐藤信)の黒テント、そして、唐十郎が率いた状況劇場(1963年~1988年)は紅(あか)テントで全国を移動して公演を重ね人気を集め、唐組もそれを引き継いでいる。
今回の「泥人魚」(作・唐十郎、演出・久保井研+唐十郎)は2003年に初演、紀伊國屋演劇賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞などを受賞した代表作が、21年ぶりに再演される。初演に出演し、今回は出演と演出も担当する久保井は「初演前、唐が長崎の諫早を訪れ触発されて戯曲を書いた」と話す。現地では諫早湾の干拓事業をめぐって、対立が激化していて、それを現地で見聞き、実感した唐がモチーフにして演劇に仕上げた。「対立をテーマにしているが、人間模様を重点にした芝居」という。今年、5人が入団したことで劇団員は19人で、「新旧の役者が旅を続けながら芝居を続けるのが劇団ならではの利点。裏方がうまくできるようになると芝居が良くなるもので、その成長を見るのも楽しみ」と話す。
劇団員のほか、南河内万歳一座の座長・内藤裕敬、(、神戸・岡山・長野、5月5日、6日の花園神社公演)、荒谷清水も出演。3度目の唐組への参加となる内藤は、 「どういう言葉にたどり着くのか、自身が楽しみながら書いている」と唐作品の魅力を話す。内藤はガンさんと呼ばれる義眼の漁師を演じるが、「彼のことをいろいろ話し、観客のイメージがふくらんでいくなかで、芝居の最後のほうに出てくるので役作りが難しい」ともいう。テント内での密接した空間で、エネルギーとメッセージが凝縮された芝居が繰り広げれることだろう。
[物語] 埋め立てに行かず、ただ一人町を去った漁師・螢一が、消えた親友・二郎を探して暮らすのは、二 郎のかつての師、詩人・伊藤静雄の営むブリキ加工店。残る約束の半分を悔やむ眼(ガン)に代わって、どうにか決着をつけようとしていた。そして、やすみもまた眼(ガン)のため、残りの約束 を果たすべくその店を訪れるのだった。 諫早湾の記憶宿る義眼が導かれる闇の行方を知らないままに、二人が遂げる二郎との再会。「人か魚か分らぬ女だ、そのウロコをはがさぬ限り、その女は人には戻らぬ」そう記したメモと共に、 残された“泥の約束”の先に二郎が見つめる一点は、海で拾われ、人魚と呼ばれ名を捨てた少女が、 ウロコの奥に封じた過去の鍵……。見えるよ、この眼(ガン)には……今、腰の辺りで光ったお前の鱗一枚が… 義眼と肉眼の間に映った一片の、はがされた傷跡の上、帰る海をなくした人魚に朽ちない鱗が舞 い降りる。
〈日程〉神戸=4月19日~21日、湊川公園(神戸市長田区)。岡山=旭川河畔・京橋河川敷(岡山市北区)、4月27日、28日。東京=5月5日、6日、10日、11日、12日、6月1日、2日、6日、7日、8日、9日、花園神社(東京都新宿区)。東京=雑司ヶ谷鬼子母神(東京都豊島区)5月18日、19日、24日、25日、26日。長野=城山公園ふれあい広場(長野県長野市)、6月15日、16日。※いずれも敷地内に紅テントを設営。午後7時開演。入場料・前売4000円、当日4200円、学生3300円、小学生以下2000円。

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