今年で48周年を迎えた映画ファンのための映画まつり「おおさかシネマフェスティバル2024」が3月3日、ホテルエルセラーン大阪5Fエルセラーンホールで行われた。『カルメン故郷に帰る』と『月』の上映のほか、ハイライトとなる表彰式は約2時間。総合司会の浜村淳さんと司会の蕭秀華(しょう・しゅうか)さんの息の合った進行で、登壇者にトロフィーの授与などが和やかに行われた。
『Winny』で「ワイルドバンチ賞」に選ばれた松本優作監督は、「弁護士が国家権力に反抗するという題材は、難しくなかったですか?」と司会の浜村淳さんに聞かれ、「僕自身、実際の事件の時は小学生ぐらいだったのであまり理解していなかったが、調べていく中で人質司法といったものは残っていることがわかった。これからも作品を通して何か世の中に問いかけるような作品を撮っていきたい」と式典のトップバッターで活きの良いコメント。「これからも反骨精神のある映画を作ってください」と司会者からエールを送られた。
新人監督賞は『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の金子由理奈監督と、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』の阪元裕吾監督の2人に贈られた。金子由理奈監督は、「撮影を始めたのは2年前の今頃。ロシアによるウクライナの軍事侵攻や、映画業界でハラスメントをやめましょう、という運動のうねりがあり、私はそういう事象とどう向き合えばいいんだろうと悩みながら映画と向き合っていました」と、話した。
撮影賞は『怪物』の近藤龍人さんへ。脚本賞は『正欲』の港岳彦さんに贈られた。外国映画作品賞には、『TAR/ター』が選ばれ、関係者を代表して大阪で宣伝を担当した大手広告社の下高原啓人さんが登壇し、配給の株式会社GAGAへの表彰状を受け取った。「これまでに、とんでもない、と思った映画が大ヒットしたり、その逆もありました。株式会社GAGAを代表しまして、この賞をいただきます」と述べた。
日本映画作品賞は『PERFECT DAYS』へ。共同脚本とプロデュースの高崎卓馬氏が登壇し、監督賞は『月』の石井裕也監督へ。新人女優賞は『BAD LANDS バッド・ランズ』のサリngROCKさんと、『PARFECT DAYS』の中野有紗さん。サリngROCKさんは登壇すると、「映画は全ての要素がかけ算。この賞を私にとらせてくださった作品への賞だと思っています」と大阪弁のイントネーションを交えて話し、『PERFECT DAYS』の中野有紗さんは、ヴィム・ベンダース監督を「言葉の壁を越えて心が通じ合う」監督だったと撮影中の印象を語った。
新人男優賞は『怪物』の黒川想矢さんと柊木陽太さん。助演女優賞は『高野豆腐店の春』の中村久美さんへ。「『高野豆腐店の春』は大阪にもご縁のある三原監督と藤竜也さんが組んでお撮りになる3本目の映画で、私も出させていただきました。最小限の人数と最小限の日数で撮った作品で、撮影スタッフがみなさん何役も買って出て、和気あいあいと信頼のもとで作ったものです」などと話した。
助演男優賞は『月』の磯村勇斗さんへ。「『月』は難解で、社会的なテーマも持っています。作っている最中は、どういうものになるのかな、という怖さがありましたが、こういう形で、みなさんの心の中に届いているのだと実感しております。有り難うございました」と語った。
主演男優賞は『エゴイスト』の鈴木亮平さんだったが、撮影の都合でビデオメッセージでの登場となった。「『エゴイスト』は愛とエゴの話だが、私にとっては人間賛歌の映画です。撮影と重なってしまってうかがえませんでしたが、大阪のみなさんに応援していただいたことを嬉しく思っています」とコメントした。鈴木亮平さんのメッセージを受けて、浜村淳さんが「多分『せごどん』の撮影で来られなかったんですね」と優しくボケると、「それは随分前の作品です」と蕭秀華さんが優しくツッ込みを入れ、「残念ですね、会いたかったね」と浜村淳さんが結んだ。
主演女優賞に選ばれたのは『愛にイナズマ』の松岡茉優さん。「『愛にイナズマ』では、観ていただいた方から、いろいろなお話を聞かせてもらって、みんなが悔しい想いをしたこととか、理不尽な目にあった思い出とかを話してくれました。だから、この世界には悔しい想いをした人がこんなにたくさん居るんだな、1人じゃないんだなと思った作品です」と力を込めた。
なお、今回は『ありがとう浜村淳です』50周年を祝して、浜村淳さんに特別功労賞が贈られ、特別賞として、おおさかシネマフェスティバルの創立メンバーでもある故・大森一樹さんの著書と、関本郁夫さんの著書が表彰された。亡き大森一樹さんにかわって舞台には妻の大森聖子さんが登壇し、謝辞を述べた後、今回出席できなかった関本郁夫さんにかわって編集者の伊藤彰彦さんが登壇し、関本監督から実行委員長で、この日欠席の高橋聰さんへ向けたメッセージを読み上げ、会場を暖かい拍手で包んだ。「大森一樹君と関本郁夫と高橋聰君がこのフェスティバルのもとを作ったと常々言われているが、それはウソです。(中略)この映画祭はズバリ高橋君が作った。(中略)あなたが作ったこの映画祭なくして私の映画人生はあり得ませんでした。また、このフェスティバルに帰って来ることが出来ました、心からお礼申し上げます」。
今回のフェスティバルを象徴するような印象を受けたのは、音楽賞で登壇した時の上原ひろみさんのコメントだ。「『BLUE GIANT』は原作のある漫画で、読者の数だけ違う(イメージの)音楽があると思います。自分自身、これが『BLUE GIANT』の音楽です、と提示するのは大きな挑戦でした」と延べた上で、「映画のエンドロールがあがった時、凄い数の人が関わっているんだな、とびっくりしました。大好きな原作に関われて幸せだと思います、有り難うございました」。誰の人生にも本人が気づかないほどたくさんの人が関わっていて、どこかで支え合っているのでは―と、そんな謙虚な気持ちにさせてくれるコメントと、暖かい式典だった。
(写真左・上原ひろみ氏 右・浜村淳氏 2023/3月3日 取材/岩永久美)

日本映画作品賞&個人賞
作品賞 『PERFECT DAYS』(配給:ビターズ・エンド)
主演男優賞 鈴木亮平  『エゴイスト』 
主演女優賞 松岡茉優  『愛にイナズマ』
助演男優賞 磯村勇斗  『月』
助演女優賞 中村久美  『高野豆腐店の春』
新人男優賞 黒川想矢  『怪物』
柊木陽太  『怪物』
新人女優賞 サリngROCK『BAD LANDS バッド・ランズ』
      中野有紗  『PERFCT DAYS』
監督賞   石井裕也  『月』
脚本賞   港 岳彦  『正欲』
撮影賞   近藤龍人  『怪物』
音楽賞   上原ひろみ 『BLUE GIANT』
新人監督賞 金子由理奈 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
      阪元裕吾  『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』
ワイルドバンチ賞 松本優作 『Winny』
特別賞   大森一樹  著書『映画監督はこれだから楽しい わが心の自叙伝』に対して     
      関本郁夫  著書『映画監督放浪記』に対して
特別功労賞 浜村 淳 『ありがとう浜村淳です』50周年を祝して
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外国映画 作品賞&個人賞
作品賞  『TAR/ター』(配給:ギャガ)
監督賞   サム・メンデス      『エンパイア・オブ・ライト』
主演男優賞 ブレンダン・フレイザー  『ザ・ホエール』
主演女優賞 ケイト・ブランシェット  『TAR/ター』
助演男優賞 ロバート・デニーロ    『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
助演女優賞 リリー・グラッドストーン 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

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