2024年3月1日から公開

不思議なタイトル。「52ヘルツ」とは、他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く、世界で1頭だけのクジラのことで、ほとんどの人に想いが伝えることができない孤独な存在を意味している。それでも、きっと「耳をすませてくれる相手」がいる。この映画は、そんな境遇にいるさまざまな人たちと出会いによって、運命が変わっていく様子を描いている。作品の軸になる杉咲花
が扮する三島貴瑚=みしま・きこ=はある傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家に移り住んできた。母の由紀(真飛聖)の意思で世間から閉鎖されて生きる貴瑚。そんな彼女の「声なきSOS」が聴こえ応援する美晴(小野花梨)、そして塾教師の岡田安吾(志尊淳)がいる。そんな美晴は、自分と共通する部分を持つ少年(桑名桃李)に出会い、家に連れ帰り一緒に暮らすことになる。
 映画には、こういったそれぞれ苦しみを抱える人々が登場する。その経緯を描くのは必須だが、さりげないシーンで、それまで背負ってきた苦悩を描いているのがいい。例えば、久しぶりに美晴と再会した貴瑚は居酒屋で人生初めてのビールを味わう。この時は苦かった味が次第においしく感じるように、閉ざされていた人生を歩み出す象徴的な場面になっている。また、無言の少年に名前を書いてもらおうとすると彼は名前ではなく、母がそう呼んでいた「ムシ」(虫)と書くシーンは胸が痛む。やがて、貴瑚は上司で会社社長の御曹司である主税(宮沢氷魚)と出会い、結婚を夢見るようになる。このあたりの描写は、ちょっとトントン拍子、主税主税のキャラクターも明るい、さわやか?で他の描写と〈色あい〉が違うように感じる。しかし、これも奥深い意味があった…。この他、真帆の祖母で貴瑚の祖母を知る女性に倍賞美津子、安吾の秘密を知り呆然とする母を余貴美子。少年を虐待、ネグレクトする若い母を西野七瀬が〈好演〉。誰もが主人公と言える密度の濃いドラマになっている。
〈物語〉傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家へと移り住んできた貴瑚は、虐待され、声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も、家族に虐待され、搾取されてきた彼女は、少年を見過ごすことが出来ず、一緒に暮らし始める。やがて、夢も未来もなかった少年に、たった一つの“願い”が芽生える。その願いをかなえることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き取り救い出してくれた、今はもう会えない安吾とのかけがえのない日々に想いを馳せ、あの時、聴けなかった声を聴くために、もう一度 立ち上がる。
〈キャスト〉杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚、小野花梨、桑名桃李、金子大地、西野七瀬、真飛聖、池谷のぶえ、余貴美子、倍賞美津子ほか。
〈スタッフ〉原作・町田そのこ、監督・成島出、脚本・龍居由佳里、脚本協力・渡辺直樹、音楽・小林洋平、製作・依田巽、堤天心、今村俊昭、安部順一、奥村景二、エグゼクティブプロデューサー・松下剛、東山健、制作プロダクション:アークエンタテインメント、製作委員会・ギャガ、U-NEXT、朝日放送テレビ、中央公論新社、日本出版販売

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