「Elvis: A Musical Revolution」
2024年2月22日

オーストラリア、シドニー ステートシアター

 キング・オブ・ロックンロール、エルヴィス・プレスリーの生涯を40曲以上のヒットソングの演奏と共に綴る、エルヴィス・プレスリー・エンタープライズ公認のミュージカルで世界初演とのこと。
 御本家公認ものというのは大抵ヒーロー仕立てで当人を賛美し、キャリアの衰退・低迷期は省かれるかさらりと流すかといったものになりがちだが、本作もそのひとつ。
貧しい家庭に生まれるも、ギターを手にしてロックンロールで世界中に衝撃と熱狂を与えた彼は兵役にも就き、赴任先のドイツで10歳年下の当時まだ14歳だったプリシラと出会い、結婚(5年後に離婚)、一人娘リサ・マリーを授かる。マネージャーのパーカー大佐の強力なコントロールのもとで量産型の映画に出演、音楽活動を続け栄光と富を得るも42歳の若さでこの世を去り伝説となったスーパースター、エルヴィス・プレスリー。
 バズ・ラーマン監督による2022年公開の映画「Elvis」や2023年公開(日本公開は2024年4月)のソフィア・コッポラ監督の「プリシラ (Priscilla)」では偉大なるカリスマ・ミュージシャンとしてのエルヴィスのみならず、彼の人生の”舞台裏”も描かれているが、この舞台は良くも悪くも深みのない、ひたすらキング・エルヴィス賛美に終始している。ヒット曲を網羅しようとするあまり詰め込みすぎになり、彼の人生の物語もエピソードを表面的に並べているだけで(そして衰退期はばっさり切り取られている)その中での苦悩や心の闇は描かれない。その結果残念ながらエルヴィスは平坦なキャラクターになってしまった。
 とはいっても、この舞台は彼の音楽を体験し、エルヴィスを讃えるショーなのだと思っていれば十分に楽しめるのは間違いない。ダンサーたちの振り付け、効果的な照明と舞台装置は素晴らしい出来栄えだった。彼を溺愛した母親は美化されすぎのきらいがあるものの、映画「ラスベガス万歳」で赤いトップと黒のタイツで躍動的なダンスをみせたアン・マーグレットの再現、そしてもちろん”エルヴィス自身”のライブパフォーマンスは大いに観客を楽しませてくれる。結局見るべきところ、楽しむべきところはそこなのだ。
 ちなみにオーストラリアではエルヴィスの人生と音楽を讃える「パークス・エルビス・フェスティバル」が毎年彼の誕生日である1月8日前後の5日間にわたって開催されている。国内外からエルヴィスのコスプレをしたファンが2.5万人以上が集まる一大イベントで、ライブショー会場も各日選びきれないほど盛りだくさん。こちらと比べるのもどうかとは思うが、ステージプロダクションは別にしても”舞台上のエルヴィス”を楽しむことにおいては実際驚くほどの大きな差はないかもしれない。
ELVIS: A Musical Revolution(英語)
https://www.statetheatre.com.au/show-calendar/elvis-musical/
The Parkes Elvis Festival(英語)

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