「あまろっく」

     2024年4月12日、尼崎先行公開
          4月19日、全国公開

 関西で生まれ育ったが、恥ずかしながら「あまろっく」(尼ロック)の存在は知らなかった。調べてみると、阪神尼崎駅から南へバスと徒歩で約20分、海の入り口にある兵庫県尼崎市にある尼崎閘門(あまがさきこうもん)のこと。約3分の1の土地が海面よりも低い〝ゼロメートル地帯〟である尼崎は、1956年に海面から7メートルもの高さの防潮堤作って、水害から暮らしを守っている。
 この映画はそんな街で鉄工所を営む家族を描いている。関西出身者の俳優ばかりが出演しているので〝違和感〟はなく、セリフというよりも日常会話を交わしているような掛け合いに、まるで隣近所の出来事では?とさえ思うほど親しみを感じる、まさに市井のドラマ。一家の苗字「近松」は、晩年の10数年を暮らして墓もあるほど尼崎との関わりが深い近松門左衛門をイメージさせるのもいい。そこの一人娘・優子は学業優秀で育ったが、周囲との協調性が希薄で会社でリストラにあい、父と2人で暮らすことになる。なんで私が?と怒りと傷心のなか家に戻った彼女を、父は「祝リストラ」という横断幕で迎える。江口のり子が演じる優子は笑顔をぶっきらぼうなタイプ。一方、笑福亭鶴瓶が扮する父は「人生に起こることはなんでも楽しまな」を哲学に、つとめて笑顔で毎日を過ごしている。そんな2人の個性、父娘関係がこの「ユニークな出迎え」が象徴している。ある日、2人で夕食をしているいつもの光景のなか、父はコロッケのうんちくを傾ける合間に「再婚する」とぽつり呟く。その瞬間、それまでの微妙な調和「さざ波」から混乱「荒波」を巻き起こっていく。
 中条あやみが演じる再婚相手で20歳の早希は、丸いちゃぶ台を買いこんで、「一家団らん」を夢見ていたが…。父と優子、早希とのぎこちない生活が始まる。とくると、衝突を繰り返しながら、だんだん打ち解けていく、というのは想定内だが、この作品は「想定外の出来事」(ネタバレになるので)が起こることで、さらにその流れがはっきり、くっきりとしていく。
関西が舞台ということで、贔屓目があるのも事実だが、CGを駆使した大作が話題を占めるなか、こういった人間味あふれる作品もいい。だからこそ、いくつかの疑問も。まず、前提として優子は会社を辞めてから、どんな暮らしをしていたのか? 優子の同級生で屋台のおでん屋を営む男性(駿河太郎)との関係は?リストラにあった優子に、後ろ向きで「うちで雇たるわ、永久でもええで」と言いながら、他の男性との恋が進展するのを、どう見ていたのか? 家族3人や鉄工所の人々は細やかに描いているぶん、こういったことを、もう少しさりげなく描かれていれば、より親近感を抱けるのではないだろうかとも思った。
〈ストーリー〉兵庫県尼崎市で生まれた近松優子は、能天気な父と優しい母のもとで育った。幼少期から勉強でも何でも全力で励み、大学卒業後は東京の大手企業で働いていた優子だが、39歳でリストラにあい優子は尼崎に戻ってくる。そんなある日、父が突然、再婚すると言い出し、20歳の早希を連れてくる。自分よりずっと年下の〝母〟の登場に戸惑う優子、3人のかみわな日々は噛み合わない日々が続いていたある日、悲劇が近松家を襲う。
〈キャスト〉中条あやみ、松尾諭、中村ゆり、中林大樹、駿河太郎、紅壱子、久保田磨希、浜村淳、後野夏陽、朝田淳弥、高畑淳子(特別出演)佐川満男、笑福亭鶴瓶
〈スタッフ〉監督・原案・企画:中村和宏、脚本:西井史子、音楽:林ゆうき、山城ショウゴ 主題歌:「アルカセ」ユニコーン Sony Music Labels Inc./ Ki/oon Music 製作:池邉真佐哉、小西啓介、藪内広之、小林栄太朗、奥田良太、 宮沢一道 エグゼクティブプロデューサー:首藤明日香、小西啓介、渥美昌泰 プロデューサー:辻井恵子、岩﨑正志 制作プロデューサー:谷口美希子 音楽プロデューサー:島津真太郎 
監督補:永冨義人 撮影:関照男 照明:平田孝浩 録音:田中聖二 美術:川原純 編集:目見田健 音響効果:濱谷光太郎 スクリプター:木本裕美 VFX:紀野伸子 衣装プランナー:TOCO ヘアメイク:宮崎裕子
文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会 特別協賛:阪神電気鉄道株式会社 特別協力:兵庫県/尼崎市 協賛:TC神鋼不動産 中島商店 レンゴー
製作:「あまろっく」製作委員会 製作幹事:MBS ハピネットファントム・スタジオ 制作プロダクション:MBS企画 配給:ハピネットファントム・スタジオ(C)2024映画「あまろっく」製作委員会2024年/日本/119分/カラー/シネスコ/5.1ch 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA