エストニアで大ヒットした「Firbirdファイアバード」の日本公開に合わせて、ペーテル・レバネ監督とW主演のトム・プライヤー氏、オレグ・ザゴロドニー氏が来日、なんばパークスシネマで舞台挨拶のため登壇し、司会者との質疑応答に答えた。(写真・左からペーテル・レバネ監督、トム・プライヤー氏、オレグ・ザゴロドニー氏)
本作はエストニアで初めて、LGBTQ映画として一般公開された記念すべき作品だ。ペーテル・レバネ氏は、エストニア出身の映画監督。主演のトム・プライヤー氏は、イギリス出身の俳優で、主演と共同脚色、共同プロデュースも兼ねている。劇中でキーパーソンを演じたオレグ・ザゴロドニー氏は、ウクライナ・キーウ出身。ペーテル監督は、ベルリン国際映画祭に行った時に、原作者のセルゲイ・フェティソフ氏に会い、彼の自叙伝を渡されて中に書かれていることに衝撃を受けたエピソードを語り、トム・プライヤー氏は、監督と一緒にロシアまでセルゲイ氏本人に会いに行った時に、非常に明るくポジティブな人物だという印象を受けて役作りに活かしたことなどを話した。
2024年1月1日に、エストニアで同性婚が認められるようになったことに関して、映画が影響したと考えているかどうか?という司会者からの質問に対してペーテル監督は、映画というのは非常に強いメディアで、人々に影響を与えると信じているので、多少なりとも映画の影響があったとは思うが、このプロセスに関しては、かねてから自分たちはロビー活動を始めていた。TVなどにも出てディベートを行い、同性婚とはどういうものなのか、根気よく説明を続けて来たことが、差別を無くすことにもつながって行ったと思う、と語った上で、観客に向けて、本作を出来るだけ多くの人とシェアして、他者に思いやりを持つとはどういうことか感じて欲しい、と結んだ。
戦火のウクライナからの来日となったオレグ・ザゴロドニー氏は、ロシアの侵攻の初期から、最前線で働く兵士に軍服を作って送る活動を続けている、と話した。ちょっとはにかむような物静かな話し方のオレグ・ザゴロドニー氏に対して、トム・プライヤー氏は溌剌としていて、好対照。英語があまり得意ではないザゴロドニー氏と、ロシア語を話せないプライヤー氏のやり取りも、会場に和やかなムードを広げた。一方、監督のペーテル・レバネ氏の方は終始どっしりと落着いた物腰で作品のプレゼンテーションを行い、貫禄たっぷりなところを見せた。
劇中では、当時の社会に潜むゲイパーソンへの偏見、密告が横行する軍隊生活が描かれる。今もロシアによる軍事侵攻が続き、戦況が見通せない状況のウクライナ。国によって、人間が人間らしく生きて行く権利を脅かされた時代を描いた本作は、現代の日本の観客の胸にどんな足あとを残し、広がって行くのだろうか。

(2024年2月10日、なんばパークスシネマ・シアター5で取材)

(story)
1977年、ソ連領エストニア。徴兵で軍隊に入ったセルゲイは、士官のローマン・マトヴィエフにバレエ鑑賞に誘われる。2人の間には恋が芽生え、セルゲイはローマンの影響で演劇や芸術に興味を持ち始めるが、当時のエストニアでは同性愛は法律で禁じられていた。原作は主人公のモデルでもあるセルゲイ・フェティソフ。脚本はペーテル・レバネ、トム・プライヤー、セルゲイ・フェティソフ。2024年2月9日から全国公開。

(profile)
ペーテル・レバネ監督 : エストニア生まれ。オックスフォード大学、ハーバード大学で学んだ後、南カリフォルニア大学映画芸術学部で演出を学ぶ。多くのMVを手がけた後、2014年に「Robbie Williams :Fans Journey to Tallinn」を監督。バルト三国におけるアーティストや国際的なイベントのプロデュースも手がける。ブラックナイツ映画祭やケープタウン国際映画祭などの審査員にも任命されている。

トム・プライヤー : 王立演劇学校(RADA)で学び、2014年に短編映画「Breaking the Circle」を制作。「ファイアバード」では共同脚本。主な出演作に、「博士と彼女のセオリー」(2014)「キングスマン:シークレットサービス」(2014)ほかがある。舞台では、ロンドンのウェストエンドで上演された「Tory Boys」「Romeo&Juliet」などに出演。2021年に本作の演技で、英国インディペンデント映画賞(BIFA)ブレイクスルー・パフォーマンス賞にノミネートされた。

オレグ・ザゴロドニイ : モスクワにあるキリル・セレブレニコフのゴーゴリ・センターに所属するウクライナ人俳優。主な出演作にルキノ・ヴィスコンティの「若者のすべて」を原作とした「Brothers」など、ウクライナのTVシリーズなどへも出演。

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