「NO 選挙、NO LIFE」
2023年11月18日から全国順次公開 12月15から京都シネマ 12月16日から第七芸術劇場/元町映画館
選挙取材歴25年の畠山理仁(みちよし)氏に密着したドキュメンタリー。25年ともなると、立ち位置は決まっていて、候補者全員を取材する。全員に会わないと雑誌に載せない、というのが畠山氏のルールだ。氏は1973年生まれ。大学在学中から執筆活動を始め、20年間の選挙取材のルポで、2017年に開高健ノンフィクション賞を受賞した人だが、劇中では「どうやって、この仕事を辞めようかな・・」と笑う。フリーランスで1つのテーマを追い続けることには、時間とコストがかかるからだ。
カメラは、そんな畠山の家庭にも入って行き、家族1人ひとりの表情を捉えている。2022年の7月の参院選で、雑誌の締め切り日に、長野県まで蓮舫氏のコメントを取りに行くシーンは印象的だ。先方には20秒ほどしか、時間は取ってもらえない。それでも選挙の行方が不安だ、と苦笑する蓮舫氏の必死の表情を撮って、締め切りに間に合わせた。
氏が会い続ける候補者の主張は様々。畠山氏は俗に言う泡沫候補の声を丹念に拾う。本来、自由と民主主義のために必要不可欠な作業だ。アプローチの仕方には特長があって、取材相手との物理的な距離が近い。ラフなTシャツ姿で挨拶し、まるで世間話でもしているみたいだ。特に、新聞、テレビの力を借りずにネットを使って選挙戦を闘う、新しいタイプの候補者と会っている時に、氏は本領を発揮する。候補者と一緒にバッティングセンターにまで行ってしまうシーンは象徴性に富んでいた。
監督は、「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川一区」「劇場版 センキョナンデス」「シン・ちむどんどん」「国葬の日」のプロデューサー(共同も含む)前田亜紀。矢継ぎ早に政治と社会をテーマにしたものを制作する影には、投票率低下への懸念があるのだろう。私たちが当たり前のように感じている民主主義は、意外と壊れやすい。保守か革新か、右か左かに関係なく、「選挙に普通に興味を持って」。そんな言葉が、全編からにじみ出ているような作品だ。
(2023/日本/109分)
配給 ナカチカピクチャーズ
© ネツゲン
※この映画については、高橋聡さんも感想をアップしています。併せてお読みください