「IL VOLO in 清水寺 京都世界遺産ライブ」

2023年1月12日

 2022年、京都市東山区の清水寺で行われた、イル・ヴォーロの無観客ライブの映像化である。ジャンルカ・ジノーブレ、イニャツィオ・ボスケット、ピエロ・バローネは2009年結成のヴォーカル・ユニット。今回のオーケストラはパシフィックフィルハーモニア東京。指揮はマルチェロ・ロータ。
 コロナ禍の2022年、無観客の舞台。どれも異様なシチュエーションだが、イル・ヴォーロの3人が直立不動で数曲唄った後、「人知れぬ涙へ」で舞台のムードが変わる。哀感を込めたムードの中で、「禁じられた音楽」「春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか」の独唱。再び3人で唄う歌曲「忘れな草」へと、コロナ禍の世界に向けた憂いの歌唱は「帰れソレントへ」の熱唱で頂点に達する。3人の舞台を中心にした映像だが、「カルメン~第1幕への前奏曲」ではオーケストラの弦と管をクローズアップ。再び3人が歌唱する、「カタリ・カタリ」「ノッテ・ステラータ」(星ふる夜)は、思わず遠方に広がる京都市街を、凝視させるほどロマンチックでどこか懐かしいメロディだ。
更にカメラは「コンラディアナ」で、京都市街全体を俯瞰する映像に切り替わる。小さく映っている京都タワーは、平和を希求する者を導く灯台のように見える。映像編集のセンス抜きに、このライブ映像は語れないだろう。一見、3人出ずっぱりのようでいて、ジノーブレとボスケット。ボスケットとバローネ、と、2人ずつの歌唱の合間に、1人ずつ休憩させていく構成は、人間的でもある。
 「マリア」「マイウェイ」にプログラムが進むと、それぞれの演技力が全面に出る。「オー・ソレ・ミオ」は特に面白い趣向で、3人は、誰が一番美しい声を出せるか、競争しているみたいだ。3大テノールに子供の頃から憧れていたという3人には、まだドミンゴ、カレーラス、パバロッティほどの貫禄は無いが若さがある。
恐怖政治が行われていた時代を唄った「星は光りぬ」は、2つの戦争に引き裂かれる2023年の苦痛を表しているかのようだ。本作はイル・ヴォーロが世界遺産を舞台に唄うライブシリーズの一環。音はただの空気振動に過ぎないのだが、空気振動に想いを託し、芸術とは何かを追求するミュージシャン達を素晴らしいと思った。

(2024年/日本/92分)
配給 ギャガ
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