「VORTEX」ギャスパー・ノエ監督、舞台あいさつ

         2023年11月16日
            シネ・リーブル梅田シネマ4で
 映画「VORTEX(ヴォルテックス)」(2023年12月8日公開)のギャスパー・ノエ監督が2023年11月16日に シネ・リーブル梅田シネマ4(大阪市北区)での先行プレミアム上映で舞台あいさつを行った。監督の強い希望で、大阪でのキャンページが実現、観客を前に、作品への想いなどをユーモアを交えて話した。
 「もうかってまっか?!」の第1声でスタート。「2年前、コロナでのロックダウンの最中にプロデューサーから『ロケーションが1つで完結し、2、3人の役者で撮れる映画を作れないか』と言われた。母が認知症だったのでそれを基にした短い脚本を書いて、1カ月後には撮影していた」とこの映画を作った経緯を話す。
「カノン」(1998年)や「アレックス」(2002年)といった〝刺激的な映画〟を発表し続けてきた監督だが、今回は「大人のメロドラマを描きたかった。老人が登場することで、いろいろな世代が自分のこととし共感してもらえるとも思った」。画面は2分割され、1つの瞬間の老夫婦それぞれのしぐさ、心情。反応を一緒に観ることができるという監督ならではの独特の手法。「この手法によって、同じ屋根の下で暮らしている2人の繋がりが薄れていくのを表現できると考えた」という。
夫を演じるのは「サスペリア」シリーズなどのホラー映画を監督してきたダリオ・アルジェント。「出演交渉をした時、『セリフを覚えたりできないよ』と言われたが、『ぜんぶ即興でいい』と説得。ダリオ自身、2,3テイクしか撮らない監督なので、この映画でも取り直したいと思っても2,3回撮ると、『これで完璧だ』と言われた(笑い)」。そして、妻に扮したフランソワーズ・ルフランはフランスでは伝説的な女優。出演作「ママと娼婦」(1973年)は監督が大好きな映画。「彼女以外に考えられなかった」と出演オファーしたのだった。
まるでドキュメンタリーかとも思うリアルな表現。「照明を使うのではなく、すべて自然光で撮影。セリフもすべて決まっているのではなく、こういう状況だと説明するだけで、出演者が即興で演じているのでより自然に思えるのだろう」とも。
映画ポスターのコレクターで、日本映画もよく観るという監督。この作品も、老いをテーマにした黒澤明監督の「生きる」(1952)、今村昌平監督の「楢山節考』(ならやまぶしこう)」などにもインスパイアされた。そして、最近では塚本晋也監督の「ほかげ」(2023年11月25日公開)を観たが、主演していた趣里に注目。「ぜひ、僕の映画に出てほしい」とも話した。
脳出血を克服して、発表する新作「VORTEX」。「これを観て、ぜひ泣いてほしい」とPRした。
〈ストーリー〉映画評論家の夫(ダリオ・アルジェント)と認知症を患う妻(フランソワーズ・ルブラン)。離れて暮らす息子(アレックス・ルッツ)は、2人を心配しながらも金銭の援助を相談するために家を訪れる。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。
◆ギャスパー・ノエ│Gaspar Noé(監督・脚本・編集)
1963 年 12 月 27 日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで父である画家のルイス・フェリペ・ノエとソーシャルワーカーで英語教師の母の間に生まれる。5 歳の時、ニューヨークへ渡り、再び、6 歳でブエノスアイレスへ戻る。1976 年、13 歳の時にフランスへと移住。パリのルイ・リュミエールで映画を学ぶ。短編映画『Tintarella di luna』(1985)で映画監督デビューし、「Pulpe amère」(1987)を経て、91 年に中編映画『カルネ』で、カンヌ国際映画祭の批評家週間賞を受賞。その続編となる初長編映画『カノン』(1998)をアニエス・ベーからの資金援助で完成させ、再びカンヌ国際映画祭で話題を巻き起こし、同賞(批評家週間賞)を受賞。2大スターを起用した『アレックス』(2002)では、モニカ・ベルッチがレイプシーンを体当たりで演じ、熾烈な暴力描写で賛否を呼び起こし、拡大公開された本国フランスではスマッシュヒットを記録。その後、東京を舞台にしたサイケデリックな輪廻転生物語『エンター・ザ・ボイド』(2009)『LOVE 3D』(2015)では、メランコリックなラブストーリーとハードな性描写を自身初の 3D映像で描き出し、賛否両論を再び巻き起こす。『CLIMAX クライマックス』(2018)では誤って LSD を摂取してしまったダンサーたちが、次第に精神が崩壊していくさまを描き、鬼才ぶりを遺憾なく発揮した。本作『VORTEX ヴォルテックス』は、第 74 回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映された。

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