「コーポ・ア・コーポ」
    2023年11 月 17 日から公開

カッコいい人たちがカッコよくアクション、ラブストーリーを繰り広げる映画もいいけれど、私はどちらかというと〈普通の人たち〉による些細な出来事(ドラマ)に興味がある。
そういった意味で、この映画はドンピシャ! 不勉強だったが、原作は岩浪れんじによる同名漫画だそう。映画を観終わって、さっそく単行本を読んだが、すっかりはまったし、出演者はキャラクターにぴったり。少年時代は漫画をよく読んだけれど、近年はすっかり遠ざかっている。そんなななかで、漫画を原作にした映画では、自分のなかで「深夜食堂」(安倍夜郎)、「セトウツミ」(此元和津也)に通じる、登場人物に強い共感を抱いた。
 舞台は大阪の下町、鶴橋近くにある「コーポ」と名付けられた安アパート。そこに暮らす〈ワケアリ〉4人とそれを取り巻く人々の生活を、刺激的にではなく声高にでもなく描いている。どこか投げやりにも見える彼ら彼女だが、それぞれの裏には…というのがエピソードごとに綴られていく。観る人によって、誰に視線を向けるかは違うだろう。私の場合は年齢的にも、笹野高史が演じる友三に、より強いシンパシーを感じた。コーポの住人が自死した後、「捨てるのはもったいない」と自分に言い聞かせるように、悪気なく?家電や冷蔵庫の食べ物を引き取っていく。また、自販機の下をのぞいて小銭が落ちていないかを、当たり前のように探す友三。さすが、実際にそこまではしないものの、そんな行動がわからなくもない。そこには、生活人の姿がある。
 そんな友三の金を稼ぐ手段は、他人をコーポに招いて、マッチ棒が燃え尽きるまで女性にあるサービスをさせること。ちょっと意味合いは違うけれど、落語の「たち切れ線香」が思い浮かび、どこか哀しい。そして、その仕事を辞めコーポを去る女性が友三に別れを告げるシーンは胸に迫る。こうした「いいシーン」が随所に散りばめられている。
 もう1つ、印象に残ったのは、ユリが仲たがいしている母(片岡礼子)に久々に会いに行くくだり。「先に喫茶店で待っている」ように指示した母が行ってみると、「本日休業」の張り紙が。なんでもない描写だが、そこで母は「なんで休みや!」と激怒シ、シャッターを蹴り続ける。そこに、娘とのコミュニケーションがうまくできない自分への怒りがみごとに表現されている。
 まだまだあげればきりがないが、それは観てのお楽しみ。しみじみとした味わいのある佳作に思える。 
〈あらすじ〉 家族のしがらみから逃げてきたフリーター・辰巳ユリ(馬場ふみか)、複雑な過去を背負い、女性に貢がせて生計を立てている中条紘(東出昌大)、日雇の肉体労働で 日々を過ごし女性に対して愛情表現が不器用な石田鉄平(倉悠貴)、過去の事こそ話さないが「コーポ」の一角の部屋で怪しげな商売を営む初老の宮地友三 (笹野高史)。彼らは大阪の下町にある安アパート「コーポ」に住んでいる。 ある日、コーポで暮らす同じ住人の山口が首を吊って死んでいるのを宮地 が見つける。似た境遇で暮らす人間の死を目の当たりに して、ユリたちはそれぞれの人生を思い返し――。
【出演】: 前田旺志郎 北村優衣 藤原しおり 片岡礼子 【監督】:仁同正明 【脚本】:近藤一彦 【原作】:岩浪れんじ 「コーポ・ア・コーポ」 【主題歌】:T字路s「愛おしい日々」(Left Brain Inc.Mix Nuts Records) 【配給】:ギグリーボックス 2023 年/日本/97 分/ビスタサイズ 【コピーライト】:©︎ジーオーティー/岩浪れんじ

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