「怪物の木こり」
 2023年12月1日から全国公開

 サイコパスの主人公で印象的な俳優は「サイコ」のアンソニー・パーキンスが挙げられる。「サイコパスは共感性を持たず自他問わず痛みに対する感受性が低く、時にはそれが恐れ知らずの勇敢さと受けとめられる。自分をよく見せる術に長けていることと併せて、一見、大変魅力的な人間に映る…」とは脳科学者で映画のサイコパス監修に当たっている中野信子さん。三池崇史監督の新作「怪物の木こり」(ワーナーブラザース配給)の主人公、二宮彰を演じた亀梨和也が日本版のそれで映画を見た後しばし、残像が消えなくなるだろう。
 亀梨は茶の間のアイドルで、野球好きの好青年という印象が強いが、これまでどこか他のアイドルと違う雰囲気があった。それがこの映画の二宮彰ではないだろうか。「美しいけれど、怖い目」である。三池監督が「彼はビジュアル的にサイコパス役にぴったり」と評して起用したのも頷ける。斧で人間の脳を奪い去る連続猟奇殺人事件の犯人ではなく、彼を捕まえる側の弁護士・二宮が亀梨の役。倉井眉介の「このミステリーがすごい!」大賞受賞の同名原作の映画化。
 絵本「怪物の木こり」の主人公が、怖い仮面を被り殺戮を行う冒頭から、波乱のドラマが展開するが、怪物が二宮を次のターゲットに選ぶことで、警視庁のプロファイラー・戸城(菜々緒)や刑事(渋川清彦)を巻き込んで、犯人と二宮のマッチング対決ムードが高まっていく。二宮に脳科学者でサイコパスの杉谷(染谷将太)が付いており、彼の異常さにハラハラさせられながら、二宮は殺人鬼の正体に近づいていく。
二宮の婚約者・映美に吉岡里帆、過去の殺人事件の犯人に中村獅童が扮し謎を膨らましていくが、2人の芝居に騙されてはいけない。この映画の登場人物はみんなどこかで自分を隠している。元宝塚トップの柚希礼音が謎の女役で出演しているのも見逃せない。主人公の亀梨と全出演者がどこかで「暗転」を狙っている。ミステリーの王道で最後まで引っ張る三池演出で緊迫したサスペンスが満喫できる作品になった。亀梨和也の「目」は当分頭から離れないだろう。SEKAI NO OWARIの主題歌「深海魚」もいい。

写真は「怪物の木こり」の亀梨和也(C)2023「怪物の木こり」製作委員会

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