石井裕也監督インタビュー
「月」
2023年10月13日から大阪のシネ・ヌーヴォ、京都シネマなど全国で上映中

石井裕也監督(40)が辺見庸の同名原作を映画化した「月」(スターサンズ配給)が全国で上映中だ。「新聞記者」(2019年、藤井道人監督)「空白」(2021年、吉田恵輔監督)などの河村光庸プロデューサーの企画した社会派問題作。河村プロデューサーは残念ながら昨年急逝したが、石井監督が「今撮らなければいけない映画」と遺志を継ぎ完成させた。原作は2017年に発表されており、石井監督は文庫化の際に解説の文章を書いている。「僕は18歳から辺見庸さんのファンで、それを知った人から頼まれて書いた」
河村プロデューサーは「かぞくのくに」(2012年、ヤン・ヨンヒ監督)で北朝鮮問題に鋭くメスを入れ、また「新聞記者」では政府官邸の腐敗を暴くといういわば禁忌に挑んでいる。原作のモチーフとなっているのは、2016年に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件である。「辺見さんの原作もそうだが、犯人の男そのものを描くのでなく、事件の中に隠されていること、見えないものを可視化することを主眼に据えた」
脚本を自ら書きながら「キャスティングで俳優が引き受けてくれるか気になった」というが、主人公の小説家で今は施設で働く堂島洋子に宮沢りえ、その夫・昌平にオダギリジョー、施設で働くさとくんに磯村勇斗、同僚の陽子に二階堂ふみが決まった。俳優陣は「事件そのものと役についていろいろ考えた末に」と異口同音に話しているが、「よく引き受けてくださった」と石井監督は感謝。撮影に臨む気持ちが高まったことは間違いない。「取材を通して、誰も見ていない状況に置かれた時、ある条件さえ整えば、人間は何でもするということを確信しました。特に被害者が告発できない状況では。それは例えば、事件やさとくんに限らず、この映画を作っている僕自身、あるいは観客の方たちの中にもそれがあるのではないか」
「世の中、障害者施設の事件だけでなく、いじめやセクハラ、差別などの問題でいろいろな事件が発生している。それは告発できないところで起こっている場合が多い。みんな隠している。施設での虐待描写は実際に起きたことを描いている。それを考えてもらいたかった」
「かつてあったものは、これからもあり、かつて起こったことは、これからも起きる」。石井監督は旧約聖書コヘレトの言葉を引用した。

写真は「答えが出ない映画かもしれない」と話す石井裕也監督=大阪・九条のシネ・ヌーヴォ

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