大島新監督インタビュー
ドキュメンタリー映画「国葬の日」
2023年9月23日から大阪第七芸術劇場で公開

大島新(おおしま・あらた)監督(54)のドキュメンタリー映画「国葬の日」(東風配給)が9月23日から大阪の第七芸術劇場で公開される。1995年にフジテレビに入社しドキュメンタリー番組を担当してきて99年に退社しその後フリーランスに。「情熱大陸」などで多くの作品を作りながら2009年に映像製作会社「ネツゲン」を設立。映画は「シアトリカル唐十郎と劇団唐組の記録」(07年)が第1作で、第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞を受賞。以後、「園子温という生きもの」「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」を手がける。「国葬の日」は5本目の映画になる。
彼は松竹ヌーベルバーグの映画監督で、後に日本映画監督協会の理事長として活躍し、テレビやマスコミに多く出演し論客としても名をはせた大島渚監督の次男。。テレビに映った野坂昭如氏と大島渚監督のリアルな格闘シーンは有名である。私は91年の「おおさか映画祭(現在のおおさかシネマフェスティバルの前身)」の時、「少年の時代」というテーマで大島渚監督を大阪に招き監督の第1作「愛と希望の街」(1959年、松竹)を上映し、映画評論家の松田政男さんの司会で大島渚監督に話をしていただいたことがある。「テレビなどで見る怖いイメージは全くなく、終始穏やかで、昔の映画と少年時代について語ってくださり、本人の中身志し温かく優しい人だと思ったことを思い出す。そのこと大島新監督にお話ししながらインタビューを始めた。
「よく父親のことを聞かれる時、あなたはなぜ映画界でなくテレビ界を最初に選び、ドラマ部門でなくドキュメンタリーを志向したのかと聞かれる。僕は少年時代おばあちゃんっ子で父が愛と性を描いた成人映画『愛のコリーダ』『愛の亡霊』(※世界的に評価が高い)を発表したことで周囲からいろいろなことを言われ反発したことが大きかった。そんなことでどうせやるなら、ドラマや劇映画ではなく、ドキュメンタリー作家を目指そうと決めた。ノンフィクションが面白いと。原一男、森達也、是枝裕和らの監督がドキュメンタリーをやっていたころでカッコいいと思っていた。テレビの人物ドキュメンタリーで唐十郎さんを取り上げたが、もっと深く描きたいということで映画に初挑戦。38歳の時だった」
父親の大島渚監督も劇映画と同時に何本かのドキュメンタリー作品を撮っているので「特に息子が別の道を行っている」という感慨はなく私は、いつか父親と同じ道に入るか、もう入っていると思うのである。現に映画前2作は政治映画であり、今回の「国葬の日」もまた同路線映画であり父親の監督作「日本の夜と霧」「絞死刑」などの社会派映画とつながっている。それはともかく、なぜ「国葬の日」を映画にしようと思ったのか。
「前作で政治家の小川淳也衆議院議員(立憲民主党)の約17年を追いかけもので、プロデューサーの前田亜紀から『次も政治つながりで撮っては?』と声がかかった。安部晋三元首相が銃撃で亡くなり、2日後の参院選で自民党が大勝。「日本はマジでやばい…」と思ったのがきっかけ。岸田首相は早々に国葬を発表し閣議決定をした。ここ数年思っていたことだったがそれを1本の映画にと。国葬の映画ではなく、国葬の日の1日だけの映画にしたいと。それには僕1人で全国を回れない。全国10ヶ所にスタッフが別れキャメラを持って行き撮影する。東京の国葬会場をはじめ、山口県の安部晋三事務所前、京都、福島、沖縄、北海道、奈良、静岡、長崎を選んだ」
「前の選挙の映画で、日本の選挙人、有権者というのは何を考えているかを大体知った。特に田舎はネットワークがあり、保守的なつながりがあり『頼まれたから…』と言って投票に行く。それは全国的なネットワークにもつながり根付いているように思う。情緒に流される。日本の有権者の特質はそれではないか。国葬について日本の有権者の反応は賛成40%、反対60%だった。果たして、その日の全国で映画のインタビューに応えてくれた人たちは何と言っているだろうか」
結果的に「予想通りだった」という。いや「その現実を撮りたかった」と。「これは日本人のグラデーションを描く映画になった」。多くの人が「どちらかといえば…」と切り出し、はっきり賛成、反対をしない。「開催費用に12億円以上を使い無駄」「安部さんは森友問題や旧統一協会問題などマイナスイメージが強い」という声は多い。また「政治外交的に安部さんの仕事は評価できる」という声も少なくない。むろん、山口県人の声と沖縄県の声もすれ違う。
「そんな中で、水害被害に遭った静岡県で水浸しの崩壊建物を掃除する主婦とそれをボランティアで手伝う高校生の会話にとても救われた。主婦は高校生たちに労働のお礼にと1万円札を出し『ラーメンでも食べて』とお礼を言う。高校生は『それじゃボランティアにならない』と断るが、主婦は『感謝の気持ちだから』と譲らない。結局、高校生は主婦に聞こえないように『有り難いが、町に寄付しよう』とキャメラにささやき笑顔でその場を去って行く」。
それでも、国葬の日の会場になった日本武道館周辺と全国その日の祝い事は粛々と行われる。だから、「国葬はやってよかったのか、悪かったのか。『結論は映画を見た人のそれぞれの胸の中にある』。僕は自分のこの映画を見て困惑した。そこに日本人の性質の底を見たような気がした。『国が決めた事やから…』。リベラル派や左の言葉は届いているか」。83歳の映画監督、足立正生氏が安部首相を撃った山上徹也の映画「REVOLUTION+1」を国葬の日に上映。『それは日本を分断することに』と上映会場で問われると「それは引き受けざるを得ない」と応える。そして「あなたは?」と問い返すことを忘れない。
足立監督は昔の若松孝二監督率いた若松プロ出身の現役映画監督。若松監督は大島渚監督の「愛のコリーダ」のプロデューサーで親友の間柄。大島新監督にとってつながりがあり「今回の映画は足立監督に背中を押してもらった」と笑顔を見せた。

写真は「映画の構成は直前の3日間で考え、1日で撮影した映画になった」話す大島新監督=大阪・十三の第七芸術劇場

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