Kenneth Branagh as Hercule Poirot in 20th Century Studios' A HAUNTING IN VENICE. Photo courtesy of 20th Century Studios. © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」
2023年9月15日公開

ディズニーから試写会に招待され、全国公開よりひと足早くこの映画を観ることができた。
アガサ・クリスティのミステリー小説を映画化した映画はこれまでにも数多くあるが、個人的には「情婦」(1957年、原題「検察側の証人」)が印象的。あっと驚くラストは見事で映画も舞台も何度も観たが、そのトリックにはいつも感心する。また、孤島に集められた人々が次々と殺されていく「そして誰もいなくなった」も映画や演劇で繰り返し上映、上演されて、なにかを例える有名なフレーズにもなっている。さらに付け加えると、アガサ自身の人生には「空白の11日間」があり、その謎を描いた映画「アガサ 謎の失踪事件」(1979年)も〝番外編ミステリー〟として興味深く観た。
それほどミステリーにあまり詳しくない人も、アガサ・クリスティという名前、彼女が生み出した特徴的な口ひげを生やした探偵のエルキュール・ポワロも知られている。一方、「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」に続いてポアロを演じ、監督もしているケネス・ブラナーも映画、そして演劇界では、「ハムレット」「オセロ」といったシェイクスピア劇に主演、演出する「超有名ブランド」。それだけに、この作品も殺人事件をことさらにビックリ、驚かせるのではなく、登場人物の設定や性格などをじっくりと描き、それが結果的に殺人に至るという人間ドラマとしての〝深み〟を醸し出している。
原作はアガサにとって長編ミステリー全66作のうちポワロが登場する33作のうち31番目に発表された「ハロウィーン・パーティ」。この映画を観た後、原作やテレビシリーズを再見したが、初の映画化でブラナー流の大胆なアレンジされている。まずは、舞台をロンドン郊外からイタリアのベネチアに変えたこと。「オリエント急行」「ナイル川」に続いて、絵になる光景が次々に描き出されるのを想像したが、むしろ水の都という観光名所ではなく、水によって閉ざされたこともある空間を設定にしたかったのだろう。そう考えてみると、「オリエント急行の列車内」「ナイル川をめぐる豪華客船の船内」という遮断された空間での殺人事件という共通点がさらに際立ってくる。個性的な登場人物のなかに犯人がいると思われるだけに、劇中人物はもちろん観客も疑心暗鬼になり、犯人を予想する楽しみが増すというもの。ただ、誰もがクセ者だけに、あれこれ頭をめぐらせるのは、ちょっとハードな頭のトレーニングでもあるのだが…。
そうしたなか沈着冷静に推理する名探偵。ただ今回は亡霊や霊媒師、降霊術といった理屈だけでは解明できないモノも登場し、ポアロも明快な推理力と不思議な事象の「境目」にとまどう様子に人間味がある。同名小説の文庫本の解説によると、アガサは庭園の手入れや植物が大好きでとても詳しかったというのだが…。謎解き、結末はもちろん観てのお楽しみ。
〈ストーリー〉1947年、ベネチアで隠遁生活を過ごしていたポアロは、霊媒師のトリックを見破るために、子供の亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。しかし、その招待客が、人間には不可能と思われる方法で殺害され、ポアロ自身も命を狙 われることに…。はたしてこの殺人事件の真犯人は、人間か、亡霊か──世界一の名探偵ポアロが超常現象の謎に挑む。
出演:ケネス・ブラナー、ミシェル・ヨー、ティナ・フェイ、ジェイミー・ドーナンほか
監督・ケネス・ブラナー、 脚本・マイケル・グリーン、製作・ケネス・ブラナー、リドリー・スコットほか、音楽・ヒドゥル・グドナドッティル、配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン Ⓒ2023 20th Century Studios. All Rights Reserve

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