「卒業 ~Tell the World I Love You~」

2023年8月25日

舞台はタイのバンコク。主人公のケンは、学校でいじめにあっている高校生。ケンには両親が居ないので、同級生の家に2年間、居候をしながら高校に通っていた・・・。
タイの厳しい経済格差を背景にした青年達の物語。主役のケンと親友のタイに、麻薬の密売組織から足を洗おうとしている青年・ボンが加わり、人生の岐路に立つ3人の姿を捉えている。タイ映画は以前から日本でも人気で、「トム・ヤム・クン!」のようなアクションものから、昨年公開された「プアン 友だちと呼ばせて」の青春映画までバラエティに富む。
本作は、狭い路地やウナギ床のような飲食店の店内を舞台にしたアクション。現代的な建築物と歴史的な風景が入り交じった場所でのロケが面白い。カメラワークにも独自のスタイルがある。コメディのパートとアクションのパート、シリアスドラマのパートが交差しせめぎ合う、中身の見えない福袋を想起させるエンタテインメントだ。主人公ケンは美少年で、親友のタイと一緒に居ると、悪い同級生達の暴力に痛めつけられる。集団の中の少数者であることは、主人公を追い詰めていくが、ヒーローとしての存在感は、この孤立によって大きくなっていく。経済格差が大きいタイの観客にとって多数派と闘う主人公は、反体制のニュアンスで見られているのかもしれない。
ケンと2人の仲間達は、学校や社会で疎外され孤立しているが、ドラマは何故、3人が孤立しているのかを、家庭環境からきっちり描いていく。特に麻薬密売組織から抜け出そうと努力する青年・ボンの家庭を描いたエピソードを観て欲しい。ボンの祖母を中心にコミカルに描かれたものだが、水面下にシリアスな貧困の問題を忍ばせている。
ポット・アーノン監督は1995年にデビューし、本作が39作目となる。社会的孤立とは何かを考えさせながらも、希望のある話に持って行く展開にベテランのプライドを感じさせる。主演は、タイの大ヒットBLドラマで頭角を現したスラデット・ピニワット。

(2022/タイ/107分)

配給 ギャガ

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