宝塚歌劇団花組「鴛鴦歌合戦」」「GRAND MIRAGE!」
2023年7月7日~8月13日
宝塚大劇場
9月2日~10月8日
東京宝塚劇場

この作品を知って、「鴛鴦」を「おしどり」と読むのを覚えた。というか、正確に言うと、宝塚歌劇団花組によるこの公演ではなく、その原作となる〝時代劇オペレッタ〟の日本映画「鴛鴦歌合戦」(1939年、監督・マキノ正博)のことを知った時のこと。ミュージカルを含む演劇、それに映画を取材するのを生業(なりわい)としているだけに、この作品は見逃せない。まだ、DVDもブルーレイも配信も普及していなかった昔にビデオを観て衝撃さえ受けた。傘貼りをしている長屋を舞台に展開するので、モノクロではあるが、天日に干すためにたくさんの和傘が開いたビジュアルは洒落ている。若い頃の片岡千恵蔵、ディック・ミネ、市川春代、志村喬が♪ズンタッタ~という軽快なリズムで歌う姿も楽しく、ストーリーも単純明快で、いまでも楽しめる娯楽作。
宝塚がそれをほうっておくわけはなく、むしろ遅いほど。脚本・演出の小柳奈穂子の功績か?長年眠っていた佳作を掘り起こして、「オペレッタ・ジャパネスク」として総天然色作品として蘇った。トップスター・、娘役の星風まどか、ほか生徒(宝塚では出演者をこう呼ぶ)の魅力は、熱狂的な「ファン」、それにほとんど同じようなスタンス!!の「取材側」にまかせて、俯瞰的な感想を。
暗転から「チョーン」と拍子木が入り、「パッ」と明るくなると和服姿の男役、娘役が舞台にずらりと並んで、総踊り。和ものの常道ながら、わくわくするオープニング。そこからいい意味でわかりやすい人情劇が展開される。もう1度、配信で映画を見直したのだが、セリフも歌も踏襲している部分が多くて、これも痛快。これは「映画での予習」の弊害?かもしれないが、志村喬が扮していた骨董好きの傘貼り職人は、たたずまいそのものが朴訥で、それが歌うとしみじみと味わいがある。宝塚の場合、「老け役」にはやや無理があり、軽めの役作りに? また、せっかく和傘というビジュアル効果のある小道具があるのだから、舞台にもっとたくさん花咲かせた(開いて)ほうが、にぎやかで鮮やかになると残念。とはいえ、それぞれにキャラが立っていて、恋の成就や失恋、片思いといった反応がほほえましくもあった。コミックや文芸もの、海外ミュージカルと、いろいろなものを〝宝塚ナイズ〟しているが、温故知新、こんな古い映画もブラッシュアップすれば、新作になる可能性がありそう。個人的には、大勢と刀を交える「雄呂血」(1925年、主演・坂東妻三郎)などもできそうな予感が。なお、さらに映画「鴛鴦歌合戦」に関心のある人には、「唄えば天国 天の巻 ニッポン歌謡映画デラックス」(メディアファクトリー刊)一読をお薦めする。
休憩をはさんで、「ネオ・ロマンチック・レビュー 「GRAND MIRAGE!」。作・演出の岡田敬二は1967年に宝塚演出家デビューした大ベテラン。ほとんどがレビュー作品を生み出している。全編を通じて起承転結があるドラマに比べ、場面ごとに時代も設定もかわり、それを歌とダンスで表現するレビューは「評する」のは難しい。「劇評では、ドラマのことを書いて、レビューのほうはいつも『併演は〇〇』と書かれる」と話すのを聞いたこともある…。「ロマンチック・レビュー」と銘打った彼のシリーズ22作目。そのなかで私的には毒薬をテーマにした「ル・ポワゾン」が印象的。♪ル・ポワゾン~、ル・ポワゾンと連呼するメインテーマは覚えやすく、口ずさめるほど。一般人が宝塚風レビューを再現するYouTubeでも、このレビューをよく見かけるほど親しまれている。
今回もフランスからイタリア、ニューヨークなどシークエンスごとに時代、場所がかわり展開していく。なかでも、ラテンの名曲「シボネー」を柚香光を軸に宝塚ならではの大人数による群舞が繰り広げられるのは圧巻。近頃は、ストリートダンスなどパワフルなダンスが多用され、それらになじみのある生徒たちが、世代的にも生き生きと踊っているが、やはり宝塚の醍醐味は、魅せるステージダンス。覚えやすいテーマソングの繰り返し、群舞を意識したショーと、いまでは「王道」を行くレビューだった。
※「鴛鴦歌合戦」については、古岡喜尋氏も感想をアップしています。あわせてご一読を。

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