総天然色版「鴛鴦歌合戦」
宝塚歌劇団花組「鴛鴦歌合戦」「GRAND MIRAGE!」
2023年7月7日~8月13日     宝塚大劇場
9月2日~10月8日    東京宝塚劇場
大好きな戦前日本映画の名作「鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)」が宝塚歌劇で上演されると知り、「これはなんとしても見ねば!」との思いで観劇した。
映画を題材にミュージカル化した宝塚歌劇の演目を、これまで数多く見てきた。
今回の「鴛鴦歌合戦」は、“ここまで映画を忠実に再現した宝塚の演目はなかった!”と言えるほどの再現ぶりで、それだけで大いに嬉しくなった。
何より、映画「鴛鴦歌合戦」は1939年の作品で、当然、モノクロ作品。
映画にようやく音が付き、映画界がこぞって歌や踊りを取り入れた時代の作品。そのなかでも「鴛鴦歌合戦」は、日本初のオペレッタ映画、とのちに言われるほどの名作だ。時代劇でありながら、軽やかなリズムで登場人物の誰もが歌い踊る。当時の観客はみな、そのリズムに乗せられて体を動かしていたのでは、と思わずにはいられない。
ただ、見るたびに気になっていたのは、その色だ。登場人物たちの艶やかな着物、オペレッタ場面の小道具としても活躍する無数の傘など、“カラー作品だったらどんなに美しいだろうか。”と思わせる作品なのだ。
それを今回の宝塚の演目で、“ようやく総天然色作品として見れた!”といった感覚なのだ。
一方、映画が公開されたのは1939年の12月14日。同年7月には国民徴用令が公布され、日本国軍の軍備に必要な人員は有無を言わさず集められた時代。9月にはドイツがポーランドへ侵攻して第二次世界大戦が勃発。10月からは日本映画も映画法による検閲が開始された時代だ。
ほぼ戦時下において、このような陽気で能天気なミュージカル映画が完成し公開された、ということに、映画人たちの隠された苦労を思わずにはいられない。ひょっとしたら、検閲と闘いながら、身の危険を感じながらも、この「鴛鴦歌合戦」の楽しさを守って国民を楽しませようとしたのか。いやはやそうではなく、もっと異なる内容だったものが、検閲の結果、逆にこのような楽しい作品に成り代わってしまったのか。真実はなかなか確かめようがない。
が、「鴛鴦歌合戦」が何度見ても楽しい作品であることに間違いはない。しかも宝塚歌劇の演目となって甦り、2023年の観客を魅了するなど、今は亡きスタッフ・キャスト一同、大いに喜んだいるのではないか。そう考えるだけでも、嬉しいのだ。
ちなみに1939年は、「オズの魔法使い」「風と共に去りぬ」「駅馬車」など、名だたる名作がハリウッドで続々公開された大当たり年だ。その同じ年に、「鴛鴦歌合戦」という、日本にも負けない作品があったことを、誇りたい。

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