「三月花形歌舞伎」
2023年3月4日~26
京都・南座

歌舞伎があまり詳しくない人でも「仮名手本忠臣蔵」という題名を聞いたことがある人は多いだろう。全11段あって、すべてを上演すると丸1日はかかるという大作。一般的には、いわゆる「松の廊下」の刃傷事件を描く三段目。討ち入りの十一段目。さらに大星由良助(大石内蔵助)が世間を欺くために遊興に浸る「一力茶屋」が舞台の七段目はよく上演されている。
この公演はその大作を「解説」(一段目から四段目)や舞踊「忠臣いろは絵姿」(七段目から十一段目)、そして五段目、六段目を芝居で上演することで、約3時間で〝ひととおり〟わかるという趣向。しかも、関西から中村壱太郎、片岡千之助、関東から尾上右近、中村鷹之資、中村苔玉ら若手役者が出演。さらに、上方型、江戸型の2バージョンで上演されることで、同じ演目でも型や解釈の違いが、これもよくわかるようになっている。壱太郎(Aプロ)、右近(Bプロ)が演じるのは早野勘平。四十七士に加わりたいと願いながらも、ある出来事でその前に自決する人物。同じ役でありながら、昼夜を観たことで、その違いが鮮明なった。
ざっくり言うと上方型の勘平はリアル、江戸型のそれは、「助六由縁江戸桜」の助六に代表されるように最期までかっこいい。それを象徴するのは、前者は猟師の扮装(最後に黒の紋服に着替えるが…)のに対して、後者は家に帰ると着替えてすっとした〝イケメン〟になる。それによって、無念さがリアルに伝わる和事に通じる上方と、最後までりりしさを失わない江戸前を訴えている。さらに、舅を殺したと腹を切る光景も、前者は部屋の隅(観客には見えないように)で、後者は中央で様式にのっとり行う。また、真実がわかる瞬間が両者で微妙に時間差があり、一方は、「それなら、腹を切らなくてもいいのに…」という微妙なタイミング。
とはいっても、なにも、「違い」ばかりを見つけることが目的ではなく、1つの原典が場所によって違うように伝えられているところに、それれぞれの土地柄、人々の性格がかいまみえて、そういったことを考える楽しみもあった。
(C)松竹 Aプログラムで早野勘平を演じる中村壱太郎(左)
三月花形歌舞伎|南座|歌舞伎美人 (kabuki-bito.jp)

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