「逆転のトライアングル」

公開日
2023年2月23日

「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(2017)で美術界を舞台に風刺劇を撮ったリューベン・オストルンド監督作品である。売れっ子モデルのヤヤと同業者のカールは恋人同士。インフルエンサーの2人は招待旅行で豪華客船に乗り込む。船では、有機肥料を売って金持ちになった男や、ロシアの富豪、武器商人の老夫婦など、超リッチな人々が楽しんでいる。
わがままな乗客の要求を聞いてチップを稼ぐ乗組員。船室に閉じこもってなかなか出てこない無責任な船長(ウディ・ハレルソン)。ドタバタの中で旅は始まるが、客船はほどなく座礁して海賊に襲われる。生き残ってとある島に流れ着いた乗組員と乗客を待っていたのは、わずかな食料をめぐってのサバイバル。ヤヤとカールも生き残るが、島では生きる術が無い。一方、乗組員でトイレ清掃係のアビゲイルは、民衆の中に培われてきた知恵で火をおこし魚を獲ることが出来る。他の人間を支配するようになったアビゲイルに対して誰もものを言わなくなり、アビゲイルは暴走する。
権力を手にした人間は人や社会を支配し始めるが、正面から批判されなくなった存在はその段階から腐敗し始める。ここに民主主義の崩壊を重ねてみたくなるような寓意がある。監督は、富が一握りの層に独占されてきた歴史の文脈の上に立ち、一皮むけば矛盾が噴き出すような状況を〝豪華客船と島〟を主な舞台にして表現した。ブラックだがこの手の逆転劇にありがちな暗さが無いのは、カールがピエロ役としてユーモラスに描かれているからだろう。カールとヤヤがレストランで口論するシーンには、男女の何気ない会話の中にも主導権の取り合いが仕込まれていて可笑しい。2人の演技も絶妙の呼吸だ。この映画は「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続き、2度目のカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した。カンヌというひとクセあるキャッチャー・ミットに、オストルンド監督が投げたストライクだと思う。

配給:ギャガ
コピーライト:Fredrik Wenzel(C) Plattform Produktion

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