「BLUE GIANT」

2023年2月17日

「ビッグコミック」の連載漫画を下敷きにした、全く新しいアニメーション。
プロのサックス奏者になるために、仙台から東京に出てきた青年が、ジャズバンドを結成して奮闘する姿が描かれる。ドラマと並行して、現在のインタビュー映像が流れ、いずれ宮本大が大成することは、あらかじめ観客に予告されている。では何を描くのかと言うと、ラストはどうなるかの種あかしをした上で、主人公が一流になるまでのプロセスに焦点を当てている。
主人公は18歳の宮本大(みやもとだい)。ある日プロ顔負けの腕を持つピアニストの沢辺雪祈(さわべゆきのり)と出会って、組むことに。トリオ結成のため更にジャズ初心者の玉田俊二がドラマーとして加わる。3人はともに18歳。宮本大と沢辺雪祈は、思想が全く違う者同士のコンビで、出会いの瞬間から既に別れの予感がある。ドラマーの玉田俊二は、技術も無く才能からも縁遠い。努力の人だがバンドの足を引っ張っている。3人の人物設定だけで、バンドが社会生活そのものだということが伝わってくる。
雪祈は初め、日本のジャズシーンを批判しているが、日本最高のジャズクラブ「So Blue」で代理演奏のチャンスを貰うと、牙を抜かれてしまう。本作の劇中で描かれる日本の音楽業界は停滞していて、新しい才能を生み出してはいないのだ。美しくカムフラージュされているがその実、若手を抑圧して利益だけを吸い上げている。大は、そんな音楽業界が変わるのを待つのではなく、人間が人間らしく誇りを持って生きていける世界を自ら作って行く。それも大きなことでなく、自分が愛するジャズを通して日常的にである。監督がそこまで意図しているのかどうかは分からないが、大がバンドのメンバーを大切に考えている描写は、音楽家である前に人間であろうとする大を物語っていて清々しい。
音楽は、演奏し出すと何者かが憑依したようにノッてくる人気絶大ジャズ・ピアニストの上原ひろみが担当。劇中の雪祈のピアノは上原ひろみが演奏している。バンドの演奏シーンでは、画面にスピード線を入れたり、回想シーンやイメージ映像を音楽に重ねたり、挑戦的な表現を多用した。試写室で聞く音楽は生演奏にとてもかなわないが、ニッポンアニメ、ここにあり。アニメだということを途中から意識しなくなってしまうほど、しっかり生命を吹き込まれた作品世界だ。

配給:東宝映像事業部
コピーライト:( C)2023映画「BLUE GIANT」製作委員会
(C)2013 石塚真一/小学館

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