モリコーネ 映画が恋した音楽家
2023年1月13日から公開

エンニオ・モリコーネ(2020年7月6日、91歳で死去)というと、「荒野に用心棒」「夕陽のガンマン」や「ニュー・シネマ・パラダイス」といった映画音楽を思い出し、メロディーを口ずさめる。それだけに、モリコーネにとって「映画音楽作曲家」は天職であり、彼自身も最初からやりがいを持ってやっていた…と想像していたが、そうではなかったことがこの映画を観てよくわかった。
研究者になりたいが、それだけでは生活ができず教壇に立つ人もいるし、ゴルフならトーナメントプロではなくレッスンプロを選ぶ人もいる。彼の場合は、クラシック音楽の道を志して著名な人物に師事したが、それだけでは生計が成り立たずに、収入を得るのが目的で映画音楽の道を歩んだ。ところが、幼い頃から家計の為にトランペット奏者としてナイトクラブで演奏していた経験、そしてクラシック音楽を学んだ豊富な知識で、自分でも思ってもいなかった才能が開花したのだった。
大きな一歩は、セルジオ・レオーネ監督に請われて「荒野の用心棒」の音楽を依頼されたこと。マカロニウエスタンとも呼ばれ、当時はB級扱いされていた西部劇だけに、手放しで喜びやる気をみなぎらせるほどことはなかったが、なんとレオーネとは小学校の同級生(劇中に幼い頃、一緒に写っている記念写真も紹介される)という運命的な再会もあり、手掛けたところ世界的に大ヒット、続々と仕事が舞い込んできたという。「多くの西部劇映画を担当した」と語っているが、仕事として割りきる一方で、音楽的にいろいろなことにチャレンジできる場であることがだんだんとわかってきたのだろう。
興味深いことに、モリコーネが本当にやりたかったことは、クラシック音楽のなかでも我々が想像するような流麗で格調高いものというより、既成のものを叩いたりすることで音を生みだりする実験的なものだった。多くの映画音楽に要求される感情を湧き立てるようなメロディーを生み出すプロフェッショナルな一面といろいろな音や音楽を追求しようとするアバンギャルドな一面を併せもっている。映画の中で、彼は「曲ができたら最初に妻に聴いてもらう。音楽に詳しくない彼女がいいとい言えば一般的にも受け入れられると、それを採用した」といった内容のことを語っている。さらに、年を重ねることでその2つが、彼自身のなかでもうまく「折り合い」がついたのだろう。メガホンをとったのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」で彼を起用したジョゼッペ・トルナトーレ監督。モリコーネをはじめ、数々の人物へのインタビュー映像を「モンタージュ」して、1人の映画音楽作曲家を偉人ではなく、我々と同じような「等身大」の人物として描いている。
配給・ギャガ
コピーライト:©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

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