「カンフースタントマン 龍虎武師」
2023年 1月6日からシネ・リーブル梅田で公開
作品については、このブログでも高橋聡さんが詳細をアップしているが、私も感想をアップする。
香港のアクション映画の変遷を、スターではなく、それを支えた「影の主役たち」の証言から読み解いていく、たいへん興味のあるドキュメンタリー映画だ。私はそこに、日本の時代劇、それも舞台の変遷とダブってきた。というのも、2022年12月に観劇した若獅子会「殺陣師一代」を観劇したからだ。若獅子会のルーツは、新国劇(年~年)にあるのだが、その代表作「国定忠治」や「月形半平太」などの殺陣を担当したのが殺陣師段平こと市川段平。歌舞伎出身の彼は、流れるような殺陣の振り付けを行っていたのだが、劇団創始者の沢田正二郎から、現実感のある殺陣を「リアリズム」(写実主義)を要求される。それに応えて迫真の殺陣を生み出したことで劇団公演は人気を博し、さらにその後、歌舞伎以外の時代劇の「立ち回り」に大きな影響を与えたのだった。
この映画のなかで、そうした役割を果たしたのがブルース・リー。その転換はまさに合致している。香港アクション映画についても、草創期は日中戦争を逃れて北京から香港にきた京劇俳優たちが舞踊をベースにした殺陣を披露していたのが、リーがそれを大転換さえた。それはまさに「リアリズム」の殺陣で、彼のハードな要求に応えられるスタントマンが生き残ってきたのだった。映画「七小星」に描かれているように、ジャッキー・チェンやサモ・ハン・キンポーらは幼い頃から京劇を学び、そうした殺陣もできるのだが、それを素地にリアルな殺陣でスターとなっていった経緯がある。 「カンフースタントマン 龍虎武師」では、リー以後にさらにエスカレートしていった命がけのスタントについて、元スタントマンが訴える!というより懐かしく、自慢げに語る姿がとらえられている。
かつて、香港に旅行した時、知人の案内で訪れたゴールデン・ハーベスト撮影所(質素な造りに驚いた)は取り壊され、いまは高層ビルになく、CGの発展で生身の人間がスタントする機会も少なくなった。また、あったとしても、組織的に育成している中国本土の養成所には数えきれないほどの人材がいる。そういった現実が胸に迫ってくる。