ドキュメンタリー映画「百姓の百の声」
2022年11月18日から京都シネマ、19日から大阪第七芸術劇場

「ひめゆり」「千年の一滴 だし しょうゆ」などの作品で知られる柴田昌平監督(59)の新作「百姓の百の声」(製作著作・プロダクション・エイシア) が近く公開される。4年かけて全国の農家を訪ね「農家力の大きさと力強さを感じた」というドキュメンタリー作家の柴田監督に作品にかけた思いを聞いた。
柴田監督は大学時代に1年休学し山村で農家の手伝いをして古老たちの人生の聞き書きをするという経験がある。「それ以来の興味であり、その時の点が今回30年ぶりに線として深めるという作業になった。一般のイメージは、農家は厳しく、辛く、泥まみれというところがあり、また反対に理想のユートピアのように扱われ二極化して論じられることが多い。その現実、当事者である百姓さんたちはどう思っているのか。映画でそれを確かめたかった」
映画は冒頭、「その国に至る道がこれほど遠いとは思いませんでした」という柴田監督の声で始まる。その国は「百姓国」であり、農家の人たちが現代の農業について「人間と自然の関係を見つめる賢人・哲学者、クリエーター、科学者、そしてエンジニア・職人である」という経緯をたどり「農業は可能性に満ちた世界である」ということに落ち着く。「それはタネの問題など複雑に絡んで数学のようだが、ブレず確かな世界でもある」
デイズニーランド3個分の土地で稲作をする横田農場の横田さん一家のおじいさんは「子どもたちの前で農家の苦しいことは絶対に言わず常に楽しいことを話すようにしてきた」と笑う。息子は立派に跡を継ぎ、その孫もトラクターの練習を始め、3世代が見事つながっている。あるいは山菜名人の細川さんは「野菜作りの秘訣は100以上ある。それをほかの人に教えればまた新しいものが自分に戻ってくる」とほほ笑む。野菜作りの清友さんは「野菜に付く害虫の天敵のタバコカスミカメという天敵の存在を高知の農家から教えてもらった」と農家の共有財産の有り難さを説く。
また国の種苗法についての法整備はあるが、シャインマスコットを特殊栽培で作る深谷さんは「外国にそれが盗まれても、それが広まることなので悪いことでなくもっといい物を作ろうと闘争心がわく」と前向き。「農家は決してネガティブでなく、未来を見つめている。それは永年、培ってきた農家力があるからで、それが日本の農業を支えている」
映画は100年続く月刊誌「現代農業」を発行している農水協(農山漁村文化協会)が協力。ナレーションは農家の3人の女性と柴田監督が担当している。
写真は「農家の人はみんな博士のような気がする」と話す柴田昌平監督=大阪の第七芸術劇場

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