「シスター 夏のわかれ道」

2022年11月25日(金) 大阪ステーションシティシネマほか全国公開

「苦い薬」もオブラートなどそれなりに口当たりがいいものに包めば、飲み込むことができるし、「苦い薬」の意味が(ありがたいことに)わからない人もいる。こんな例えができる映画だ。独裁体制へ突っ走る人たちは幸いなことに、この映画の苦み、深みがあまり理解できていなかったのだろう。そのおかげで劇場公開ができて抜群の動員を記録、数々の作品賞を受賞できたわけだ。国民のほうがよっぽど敏感で、姉弟といった家族をテーマのなかに骨太で強いメッセージ性を感じ取ったのだろう。
両親を交通事故で亡くし、取り残された幼い男児。たった1人の家族は、両親とは関係を断ち、看護婦として暮らしている姉だけ。といった設定断ちそれほど珍しくはない。日本映画なら多少の軋轢はあるものの、やさしい姉が引き取って一緒に暮らす…。という流れを情感たっぷりに描くところだろう。
しかし、この中国映画はそうしたウェットな心情より、もっと生活に即した現実的なものが前面に出ている。われわれからしたら、幼い子供が不憫で、なんとか面倒をみようとするだろうが、ヒロインはなかなかそうすることがなく、ときには「そこまでやる?」というほどの接し方もする。しかし、そこにこそ中国の現実がある。主人公の姉は、両親から外部には「体が不自由」と偽の申告されていたのだ。その背景にあるのは1979年から2015年まで実施されていた「一人っ子政策」。一人っ子といっても女性は望まれず、生まれたきた女児を「体が不自由」と偽って、男児を持とうとしたのだ。さらに、国の思惑で職業の自由さえも束縛され、医師を目指していた彼女は自身にとっては満足できない看護婦の仕事をする毎日だった。
外見上はセンチメンタルな姉弟、家族のストーリーという形をとってはいるが、そうした〝深読み〟をすれば、さらに味わいが増す佳作だ。
監督:イン・ルオシン 脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム

2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:我的姐姐/日本語字幕:島根磯美
配給:松竹 宣伝:ロングライド
写真© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/sister/

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