映画「千夜、一夜」
2022年10月7日からシネ・リーブル梅田ほかで公開

田中裕子(67)と尾野真千子(40)が初共演した映画「千夜、一夜」(久保田直監督)が面白い。新藤兼人監督の「北斎漫画」のヒロインに拍手を送っていたのは何年前か。若く美しい演技派の田中が、年を経てからも高倉健の奥さんを演じて似合うし、近年の「ひとよ」のお母さんでも見事な存在感を示した。一方の尾野は女高生の「萌の朱雀」から、夫を亡くしコロナ禍で息子を育てる母親を演じた「茜色に焼かれる」まで見事に成長。この夏の「サバカン SABAKAN」のお母さんもよかった。
「千夜、一夜」は脚本の青木研次が田中のために書いたオリジナルストーリーで、「家路」でも組んだドキュメンタリー畑出身の久保田直監督(62)がメガホンを取った。日本は年間失踪者が8万人いるという。佐渡島で漁師をしていた夫が失踪して30年になる登美子が田中の役。「帰って来ない理由なんてないと思ってたけど、帰って来る理由もないのかもしれない」。登美子はそれでも待っている。
同じように夫(安藤政信)が2年前に失踪し、帰りを待つ奈美が尾野の役。こちらは諦めが早く新恋人(山中崇)もできて新生活を始めようと思うが、何と夫が帰って来るから大変なことになる。登美子にも地元漁師の男(ダンカン)が永年想いを寄せているが、彼女は頑として受け入れない。「待つ女」2人の人生の機微を描いてなかなか面白く、切なく、もの悲しい。若い人は奈美の尾野に同調するだろうか。年配組は断然、登美子の田中を応援するだろう。淡々と静かに話す登美子が、少し大きな声を出すシーンは田中という女優の凄いところで、久保田監督の演出が重なっている。白石加代子、長内美那子、田島令子、阿部進之介らが共演。 ビターズ・エンド配給。
写真=田中裕子(C)2022映画「千夜、一夜」製作委員会
https://bitters.co.jp/senyaichiya/

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