「失われた時の中で Long Time Passing」
9/3(土)~ 第七藝術劇場   9/16(金)~ 京都シネマ
坂田雅子監督・インタビュー

【Q】枯れ葉剤の被害は今も続いていますが、アメリカは今も罪を認めていませんね。
グレッグ・デイビスさんの場合は55歳の若さで亡くなられましたが、枯れ葉剤の影響だと証明されてはいないのですか?

坂田監督 : 「(グレッグの死が)枯れ葉剤の影響だということは証明出来ていません。アメリカの帰還兵たちは1984年に集団訴訟を起こしたんですね。とても数の多い訴訟でしたが示談をして、歴史的な大金が支払われた。ただ、それは何万人という帰還兵の間で分けるので、1人にしてみると小さい額になりました。訴訟は示談で終わったから、誰に責任があるかということは、はっきりしないまままです。それから1991年に救済法が出来て、
それ以降法律で、ベトナム帰還兵がある程度、支援を受けることになりました。ベトナムに行ったことのある帰還兵たちの病気のリストがあるんですが、その病気に当てはまる人は補償されるという、わりと手厚い法律です。ただ、私の夫は肝臓ガンで亡くなったんですが、肝臓ガンはその病気のリストに入っていない。だから、補償金をもらうことは試みませんでした。」

【Q】でも、これは戦争犯罪ではないのか、という視点で、フランスで開かれた国際模擬裁判のシーンが、映画の中に出て来ました。あの模擬裁判というのはどういうものですか?

坂田監督 :「 模擬裁判は“こういう問題がある”と提示して、市民の意見を反映させるだけのことで、これが強制的なものに繋がるわけではないです。でもそれをきっかけに2021年に、元ベトコンでジャーナリストのニャーさんの訴訟が出来た。それも負けたわけだけれど、そういう問題があるんだということを、一般の人に知らせる役目を果たしていると思います。こういう問題を白日のもとにさらすという目的は達せられたんじゃないでしょうか。」

【Q】 映画の中では、今のベトナムの近代化された都市部と、地方都市の非常に牧歌的な光景の両方が映し出されていました。ベトナムは驚異的な経済発展をしていますが、やはり発展に格差はありますか。

坂田監督 : 「ハノイなどに行く度に、目を見張るようなビルディングが出来ていてビックリしますが、田舎に行くと昔のまま・・・ということが多いですね。特に、枯れ葉剤の被害者達は経済的に取り残されてしまっている。世話をするために親が時間をとられるから、社会的な成功の梯子を登ることが出来ない。格差は凄くあると思います。」

【Q】深刻な問題ですね。地元ベトナムのテレビ局は、枯れ葉剤の悲劇について自由に番組を制作出来ているんでしょうか。

坂田監督 : 「制作していると思います。私の映画も何度かベトナム国営放送で放送されました。ベトナムは国の政策で、枯れ葉剤の作品を作ろうという動きがあります。でもやっぱり、若い人たちの興味は昔のことじゃなく、経済発展の方です。若い人はアメリカが好きで、モットーは“許すけれども忘れるな”。過去のことにこだわっていては進展が無いから、水に流して・・・という考え方です。」

【Q】 劇中にグレッグ・デイビスさんのエッセイが出て来ますが、あそこでグレッグさんの声を担当しておられるジョエル・サケットさんはどんな人ですか?

坂田監督 : 「彼はシアトルに住むカメラマンで、映画のチラシに載っているグレッグの写真を撮った人です。グレッグの親友で、グレッグが亡くなった後も私にいろいろ助言をしてくれました。ナレーションを考えていた時、彼しか居ないと思ったんです。声はグレッグに似ていませんが考え方が似ていて、とてもいいナレーションをしてくれています。」

【Q】 劇中にはグレッグ・デイビスさんの少年みたいな頃の写真も出て来ますね。大人になってからは全く違う印象の顔になる。普段は暗く沈んだ感じの方だったんですか?

坂田監督 : 「全然違います。私は大学に入ったばかりなのに授業も殆ど無くて、凄く閉塞感があった。毎日京都の下宿に居て、何をすればいいかなと思っているところへ、彼はいつも何かすることを探してくるんですよね。オートバイに乗って颯爽として、自由の風を運んで来た。」

――坂田監督がグレッグ・デイビスさんに初めて会ったのは、学生運動で大学の授業がストップしていた時。“これから自由になって、世界を発見するんだ”という意気込みで写真の世界に入っていく青年は、1人の学生の眼にどれほど鮮やかに映ったのか。出会った頃のグレッグ・デイビスさんは「イージー・ライダー」のピーター・フォンダのイメージだった、といたずらっぽく笑う坂田監督にお会いして、ベトナム戦争と枯葉剤被害の今を撮った本作に、もう一つ、共感ポイントを発見しました。――

http://www.masakosakata.com/longtimepassing.html

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