「母へ捧げる僕たちのアリア」
2022年7月1日公開

早起き?はするもの。気になっていたこの映画、シネリーブル梅田では午前9時15分開映だったので、ちょっと迷ったのだが、やはり観てよかった。登場人物のそれぞれのキャラクター、バックボーンがきっちり描かれていて、それらの人物がさまざまに絡み合い、1つのドラマとしての完成度が高い。それも、大感動!というのではなく、なにかそれぞれに将来への少しの灯りが感じられるような、余韻が味わえる。
フランスの海沿いの町に、兄3人と昏睡状態の母親と暮らす14歳の少年が主人公。なんとか母に目を覚ましてもらおうと好きだったオペラを大音量で流す毎日で、いつしかオペラが好きなっていく。そんななか、偶然に学校でオペラを教える夏期レッスンを知り、歌うことに魅せられていく。
まったくの偶然だが、この構図が、僕の好きな映画「エール」、それをアメリカでリメイクしてアカデミー作品賞などに輝いた「コーダ あいのうた」と共通数するものがある、例えば、子どもながら家庭を支えていかないといけない境遇。音楽に魅せられて歌手を目指す。才能を見出し、そんな夢を後押しする「教師」に対して、肉親は猛烈に反発する…など。
といって、ダブらせて観たわけではなく、観ているうちに、いい意味でデジャヴィ(既視感)になったというわけ。
劇中には、ルチアーノ・パバロッティの「誰も寝てはならない」(「トゥランドっト」より)、マリア・カラスの「カルメン」、など名曲がちりばめられている。それらがただのBGM的効果だけでなく、大きな意味さえもっている。例えば、少年が母の前で唄う「人知れぬ涙」(「愛の妙薬」より)は、題名からして意味があるし、「ひとすじの涙~」という日本語字幕が、少年の想いが投影されている。そして、「女性教師」(実は主役をはるオペラ歌手)のはからいで、オペラを観劇する少年は、決意を強くする。
ついついスケールの大きな映画ばかりに目をいきがちだが、こんな「人知れぬ映画」?もいいものだ。
これはシネ・リーブル梅田という東京テアトルが運営する映画館で観たのだが、これを書いているときに、同じ系列のテアトル梅田が9月30日で閉館することが発表された。
大作ほどには、製作費や宣伝費などをかけていない、こうした佳作がこれからも観られる機会を願うばかりだ。
https://hark3.com/aria/

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