ドキュメンタリー映画「私だけ聴こえる」
松井至監督インタビュー「コーダの居場所探し」
2022年6月25日から
大阪の第七芸術劇場で公開
耳の聴こえない親から生まれた耳の聴こえる子どもたちをコーダという。アメリカのコーダ・コミュニティを取材したドキュメンタリー映画「私だけ聴こえる」(太秦配給)が25日から大阪・十三の第七芸術劇場で公開される。3人の15歳の少女に付き添った松井至監督(38)に「コーダの居場所探し」と「他者と共に生きる」という考察について聞いた。
今年の米アカデミー賞で作品賞に選ばれたのは「コーダ あいのうた」。コーダの少女とその家族を描いた作品だった。松井監督は2015年に東日本大震災で「耳の聞こえない人たちは津波のときどう逃げたか」という取材で東北に出向きその言葉を初めて聞いた。「コーダたちが津波からろうの親を救ったという経緯があった。そのことが映画作りの端緒になった」
震災取材に同行した女性手話通訳者のアシュリーが「私もコーダです」と打ち明けた。「これは何か形にしなければ」と、アメリカのコーダ・コミュニティと連絡を取った。年に一度開催される「コーダ・サマーキャンプ」というイベントに参加した3人の少女を3年間カメラは追いかける。「私はろうになりたい」と涙を流すナイラの内なる心。母と別れて大学に行くジェシカの決心と覚悟。自分の人生を手話で物語ることで視野を広げようとするMJ。
「最初3日間のナイラの取材で、彼女がろうの世界に慣れ親しんで育ったため学校のクラスの子となじめず、ろうの子からは『ナイラは聞こえるから』と仲間外れにされ、自分と同じ境遇のコーダたちといるときだけナイラのままいられると話し、同情はしてほしくないと涙をためきっぱり言った。ナイラは同世代の子と同じように居場所を探していると思った」
映画は手話通訳者のアシュリーが妊娠を機に「お腹の子がろうになるか、聞こえる子になるか」という悩みを抱えながら出産に向かう場面を捉えている。「この映画は迷子になったコーダに同じ経験を持つ人の存在を知らせると共に、本当は誰もがこの世界の迷子であり、居場所を探しているということを伝えたかった。他者と生きるということにつながるだろう」
ドキュメンタリーは「鏡」であり、「他者の中に自分を見る」こと。「コーダの心を映画で運びたかった」と松井監督は付け加える。

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