「エルヴィス」
2022年7月1日公開
「エルヴィス・プレスリーの映画」と言うと、「やさしく愛して」「GIブルース」「ラスベガス万才」など彼自身が主演している映画のほか、42歳で謎の多い死を遂げた生涯はドラマチックで、カール・ラッセル主演の「ザ・シンガー」(1979年)といったテレビシリーズ(日本では劇場公開)など数々ある。それらに共通するのは、当たり前のことながら彼が主人公なのだが、今回の映画はちょっと違う。彼のマネージャーがパーカー大佐という人物だったというのは知っていたが、名称からして退役軍人かな?と思ったいたのが、とんでもないことだったと、これを観てよくわかった!ある意味では、オースティン・バトラーが演じたエルヴィスとトム・ハンクス扮するトム・パーカーが〝ダブル主演〟という感じ。
監督は「ムーラン・ルージュ」などのバズ・ラーマン。パーカーがテキサス州メンフィスに暮らす無名の青年を見出し、スターになるまでは、ラーマン監督お得意のバックにずっと音楽が流れ、アメコミ風のアニメまで駆使してテンポよく展開。ここまでなら、痛快なサクセスストーリーなのだが…。
大金を稼ぎ出すスターにはよくあることで、「誰か」が巧みに搾取していることがわかってくる。くしくも、プレスリーからエルヴィスと呼ばれるようになったあたりから、その色彩が濃くなってくる。映画ではコンサートなどが忠実に再現されていて、〝音楽映画〟として心置きなく楽しめるはずなのだが、その裏側が描かれいるだけに、エルヴィスの苦悩が伝わってきて、そうとはならない。
なかでも、ラスベガスでのコンサート。映画にも登場する全世界に向けての衛星中継を観た時には、「なんでも夢が叶うスーパースター」と確信したものだが、実情はそうではなかった。パーカーがラスベガスのホテルと契約したことで、希望していた海外ツアーも行くことができない〝籠の鳥〟。彼の死後、「ストレス発散のために、ドーナツばかり食べて太ったのが原因」とか、死んだはずのエルヴィスと会ったとか、隠し子がコンサートを開いた(実際に日本公演が行われ、観たことがある)など、おもしろおかしいエピソードもあったが、内情は極めてドロドロの人間関係、金銭関係。そうしたドラマを、ラーマン監督は流麗に描き、ハンクスは(あまり)憎めない人間臭いキャラクターを演じ、きれいな映像によって「エンタテインメント」作品として包み込んでいる。
映画『エルヴィス』オフィシャルサイト (warnerbros.co.jp)
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