「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」

中村裕監督に聞く
2022年5月27日公開

昨年11月に亡くなった瀬戸内寂聴さんに17年間寄り添って記録したドキュメンタリー映画「瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと」(KADOKAWA配給)が5月27日からテアトル梅田ほかで公開される。ドキュメンタリー作家の中村裕監督(62)に「絶望しない!」「明日も生きる!」という寂聴人生についていろいろ聞いた。
2004年にテレビ「情熱大陸」(MBS系)で82歳の寂聴さんと初めて出会った。作家で僧侶の彼女は売れっ子で、全国で説法や講演を行い初めは「ちょっぴり怖い人」だったが、「びびりながら追いかける僕にフレンドリーな笑顔で接してくれた」と当時を振り返る。その後、NHKBS「毎日寂聴青空説法」の演出や旅番組などで同行する機会が増え、京都・嵯峨野のお寺「寂庵」に通うようになった。
NHKスペシャル「いのち 瀬戸内寂聴 密着500日」(15年)で同年ATP賞ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞。「映画の企画は3年くらい前からあって先生からも勧められていたが、コロナ禍のこともあってうまくいかなかったが、21年の2月ころ、ご本人から『私が死んだら葬儀も撮って、あなた独自の視点の作品を作りなさい』と言われた。その言葉に驚きながら『それなら生前に先生に見てもらおう』と、それまでの記録データをまとめる作業に入った」
映画は本人が寂庵や他の場所で説法するシーンや、邸内で中村さんと対談(会話)するシーンを中心にしながら、結婚し子どもができてから「小説家に」と家を出て、駆け落ち、不倫、三角関係など自らの体験をつづった私小説を発表した経緯と、51歳で出家して生きるプロセスが断片的に語られる。結果的に21年6月の寂庵での対面が最後になった。その日、コロナ禍でテレビにリモート出演したが「失敗した。ぼけていた」と悔やみ泣き出した。「99歳ではなく10代の女性が見せるような悔し泣きのようで、彼女は若いと感嘆した。これまで自分の好きなように生き、好きな道を選んだが、それは『危ない方の道だった』と言い、失敗は役に立つ」と断じた。「最晩年まで先生は『絶望しない!』『明日も生きる!』という言葉を身上にしていたと思う」。
寂聴さんは死ぬまで原稿を書き続けた。最後の新聞エッセイに還暦になった男の明日を心配する気持ちがつづられた。中村監督は「その男は僕のようであり、寂聴さんが愛する多くの人。人を思うことの大事さを語る名文だった。先生の死は悲しく寂しいけれど、やりつくした人生だった。映画の中でそんな多くの言葉を味わってもらえたらうれしい」と力を込めた。

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