伊藤健太郎復帰第一作

「冬薔薇(ふゆそうび)」

6月3日公開

阪本順治監督(61)の新作「冬薔薇」は、不祥事で俳優業を自粛していた伊藤健太郎(25)の復帰第一作。デビュー作「どついたるねん」の赤井英和、「顔」の藤山直美のように主役を決めて脚本作りをするのは阪本流といえるかもしれない。「のぼる小寺さん」で清潔感あふれる青年を演じた伊藤が今回は両親(小林薫、余貴美子)の元で、就職もせずダラダラ生きている次男坊で阪本監督は彼に殻をどう破るかという宿縁を重ねているようなところがある。
横須賀の港で小さな船の運送業を営んでいる父親とほとんど会話がなく、それにやきもきしながら先に事故で亡くなった長男の神棚に手を合わせる母親。家業を継ぐ気もなく、服飾の専門学校に通いながら、街の不良グループと付き合う日々である。その衝突で大けがをした淳が初めて父と向き合い自分の思いをぶつける場面や、学校のクラスメートの裏切りに遭い地団駄を踏む淳の姿は痛々しいが、それは誰も突き当たる人生の大きな曲がり角であろう。
父と息子の間に流れる無言の会話がせつなく、小林のおどおどした姿と、間に入って諦め顔の母を余がしみじみ演じている。不良グループの永山絢斗と毎熊克哉が昔の日活映画「野良猫ロック」を思わせ、主人公・淳との縁でいえば「竜二」の金子正次と重なるところもある。伊藤健太郎の淳がラストで帰る場所を見つけることができたかどうか。眞木蔵人、石橋蓮司らベテランと和田光沙、坂東龍汰、河合優実ら若手が伊藤をバックアップしている。
タイトルは「ふゆそうび」と読む。冬枯れの中にぽつりと咲く花。暗く寂しいけれど、温かい春は遠くない。阪本順治監督の遅い青春映画の傑作である。
※写真説明=伊藤健太郎(C)2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
映画『冬薔薇(ふゆそうび)』公式サイト (fuyusoubi.jp)

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