「ミッシング」
  2024年5月17日公開

ワーナー・ブラザース映画からの招待で試写で観た。
駅前などで、ビラを配っている人をよく見かける。店の宣伝や政治的メッセージなどもあるが、ときには「行方不明」になった人の手がかりを懸命に探す
家族の姿も目撃する。正直を言って、そんな熱気から「距離」を置きたいと、手にすることは少なかったが、この映画を観て考えが変わった。
愛する娘が「ミシング」(行方不明)になった夫婦の物語。タイトルからして、石原さとみが演じる母親を軸に、「行方不明」になった娘を懸命に探し、最後は発見する…といったサスペンス・タッチの作品を想像していた。しかし、現実はドラマではない、そんなことを感じさせる内容になっている。石原は、役作りのためにあえて添加物の多い食事をとり、シャンプーではなくボディソープで髪を洗って、生活感がある主婦、母親像を作りあげた。脚本・監督の吉田恵輔は全編にわたって、そうした日常感、リアリティーを追求している。例えば、沙織里の夫・豊(青木崇高)のたたずまい。感情をストレートに出す妻に比べて、つねに気持ちを抑えて行動、他人が勝手に思う〝渦中の人〟像ではなく、ちょっと違和感があったのだが、ある場面での号泣する姿に、(自分なら狼狽するばかりで無理だけど)、そんな人もいるのだなとも感じた。
 また、沙織里の弟(森優作)も気になる存在。なにかを隠しているようでもあり、ある時に幼い女児を連れた男性を目撃する。悲しい出来事なので、これをきっかけに「結末」があるのはもちろんいいことなのだが、この作品はそうした「予定調和」で終わって欲しくないとも思っていると…。
 もう1つ印象的なのは、この「ミッシング」を取材し続ける地元テレビ局の記者・砂田(中村倫也)に、沙織里が「もう来ないで!」と怒りをぶつけるシーン。とは言ってものの、いま頼れるのはテレビ局しかなく、去っていく車を追いかけて、必死に謝る沙織里。理屈ではない、こうした気持ちの矛盾は、われわれにはよくあること。こうした描写で、いっそう登場人物が「等身大」であるのを感じた。
 さらにもう1つの大きな軸は、砂田を描くことで、マスコミへの在り方も訴えかけていること。最初のうち「大丈夫ですよ、きっと見つかりますよ」と話す砂田が描かれる。その気持ちに偽りはないが、どこか紋切り型を感じた。しかし、夫婦の気持ちに押され、局の判断に疑問を感じることで、次第に心から「解決」のために取材する姿に変貌していく。報道と視聴率のはざまに存在するマスコミ人。映画「新聞記者」やテレビドラマ「エルピス」に通じる訴えも受け取れた。
 この映画、テレビドラマなどでのスタイリッシュな姿で、石原にあこがれを抱く人たちにも観てほしい作品だ。
〈ストーリー〉ある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里(石原さとみ)は、夫・豊(青木崇高)との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局 の記者・砂田(中村倫也)を頼る日々だった。世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。それでも沙織里は「ただただ、娘に会いたい」という一心で、世の中にすがり続ける。
〈キャスト〉石原さとみ 青木崇高 森優作 有田麗未 小野花梨 小松和重 細川岳 カトウシンスケ 山本直寛 柳憂怜 美保純 / 中村倫也 〈スタッフ〉監督・脚本:𠮷田恵輔 音楽:世武裕子 製作:井原多美 菅井敦 小林敏之 高橋雅美 古賀奏一郎 企画:河村光庸 プロデューサー:大瀧亮 長井龍 古賀奏一郎 アソシエイトプロデューサー:行実良 小楠雄士 撮影:志田貴之 照明:疋田淳 録音:田中博信 装飾:吉村昌悟 衣装:篠塚奈美 ヘアメイク:有路涼子 スクリプター:増子さおり 助監督:松倉大夏 制作担当:本田幸宏 編集:下田悠 音響効果:松浦大樹 VFXスーパーバイザー:白石哲也 キャスティング:田端利江 題字:赤松陽構造 製作幹事・WOWOW 企画:スターサンズ 制作プロダクション:SS工房 配給:ワーナー・ブラザース映画。
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