「その鼓動に耳をあてよ」

2024年1月27日から全国順次公開 
2月3日から第七藝術劇場、元町映画館、2/16から京都シネマで。

東海テレビドキュメンタリー劇場:第15弾「その鼓動に耳をあてよ」は、名古屋掖済会(えきさいかい)病院の救命救急センター(ER)を取材したドキュメンタリー映画。TV版は2022年文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞を受賞している。新型コロナ第5波の中で時代の苦悩と向き合う人々を描いた本作の公開を前に、足立拓朗監督と圡方宏史プロデューサーにお話を伺った。(写真左・圡方P/右・足立D)

【Q】 ERの撮影は非常に難しかったと思いますが、いいシーンを撮っておられましたね。書類の隅に書かれた一言だけの走り書きや、ワン・シーンしか登場しないような人物の重要なセリフといった、小さなものが積み重なって大きな文脈になって行きます。映像の編集もいいですね。
【足立拓朗D】 高見順による3回の編集です。1回目のドキュメンタリーと、文化庁芸術祭に出す時に、ナレーションを無くしたんですよ。その時、相当編集が要りますから、もう1回編集したものをベースに、映画用にまだいろいろ作り替えたのが、最後の3回目です。
大抵、どの局もそうなんですが、1回ドキュメンタリー作ったら、せっかくなら賞に出品しよう、となって、芸術祭に出品すると言っても、再編集せずに出しますが、うちの場合たまたま、TVオンエアしてから半年くらい経った頃に、ナレーション無くしてみよう、と阿武野が言ってくれたので、編集しました。ナレーションが無くなったバージョンを観て、そこから「映画化しよう」と決まった。じゃあ、映画化するのに、もう1回編集しなくちゃいけない、となったんです。
【圡方宏史P】他の作品でも、TVの放送から映画にする時、1回大きな編集はあります。今回は、芸術祭に出すぞということで、ナレーションはずしちゃおう、となったので、もう1回大きな編集が生じました。だから、どんな作品でも必ず3回編集やる、というワケではないですね。

【Q】 時にTVは、密着は得意だけれど分析は苦手、と揶揄されることがありますが、本作はじっくりテーマを分析している作品だなと思って観ていました。
【足立拓朗P】 そう言われるとちょっと嬉しいですが、僕の場合は、救急の学会について行ったり、講義を聴いたり、酔っ払った時の彼らの話を聞いたり、現場に行く中で訴えたいことを自分で見つけて行きました。分析って言うのは何をもって、というか、分析した、というほどの自負を持って言えるようなことは、していないです。

【Q】 プロデューサーは、〝ここは残さないと〟といった指示は出されるのでしょうか?
【圡方宏史P】 直接的な解答にはなっていないかもしれませんが、ディレクターの想い、というか、感じたことは必ず入れなきゃいけない、と思っています。どれだけ物語が美しくなったりとか、体裁が整ったりしても、実際に現場を見に行った者が感じたものが、入っていない状態だったら、これは意味が無くなってしまうから。感じたものは、必ず入れなきゃいけない、と思います。今回監督に〝入れなきゃいけないよ〟とは言わなかったですけど、それがちゃんと残っているかどうかは見ています。自分の役割はどっちかと言うと、現場に行って来た人達の想いが、いっぱい詰まったものから、削いでいく作業だと思ってますから、肝心の魂の部分を外してしまわないように、気をつけなきゃいけないと考えていました。僕自身も、分析っていう部分はまだ、解釈しきれずにいるんですけれど、凄くポジティブに捉えるとすれば、半分が分析。半分は実地と言うか、現場に行って来たスタッフが現場で感じたこと・・・特に、どういう展開になるか、とか、これから何が言えるだろう?みたいなことを逆算して、あまり頭でっかちに考えずに、現場で獲れた素材から料理作るみたいな・・・これが、神髄かな。特に、とっても長い時間をかけて、素材を集めることが出来る環境こそが、東海テレビのドキュメンタリーの真骨頂かな、という気がしています。普段の、僕らのニュースの仕事の逆を、ドキュメンタリーではやりたい。自分自身でもやりたいですし、足立君も現場に行って監督をやるんだったら、そういう楽しさを知ってもらいたいなとは、思っています。

【Q】 時間をかけて映像素材を集めて作られたドキュメンタリーには、何が出て来るかわからない面白さがありますね。今、日本でも話題になっている生成AIは、今後ドキュメンタリーに使えるでしょうか?又、TVの報道に使われるようにはなるでしょうか?
【足立拓朗D】 僕は、生成AIの取材をちょうど半年前にしたのですが、あれは〝拾ってくる〟話なんですよね。たとえば今回のドキュメンタリーなら、「救急における課題を教えてください・・・」とか、質問するわけですよね。多分いろいろ出て来ると思うのですが、そもそも、学会などで書いている人がほぼ居ない事実やキーワードに関しては、ひっかかって来ないじゃないですか。つまり、生成AIは、ゼロから1は作れないという話です。報道の、普段のニュースではなくて、ドキュメンタリーだと、何を訴えたいのか、自分で見つけなきゃいけないから、多分、真実しか出てこない生成AIが今、あったとしても、意味が無いんじゃないかな、と思います。極端な話、辞書を大量に見てきた人が答えてくれる・・・みたいなイメージです。ただこれは、生成AIそのものがいいとか、悪いとかという話ではありませんよ。

【Q】 これは、是非伺いたかったことなんですが、私は最近、医療ものの劇映画を観ていて、わりあい、性差別が少ない職場みたいに描かれていると思ってたんです。こちらがそういう作品を選んで観ているのかもしれないのですが、「その鼓動に耳をあてよ」は劇映画ではなくドキュメンタリーですよね。でも職員さん達はわりに、フラットに見えて感じが良かった。監督は、現場で男女の職員間の平等性について何か感じられましたか?
【足立拓朗D】 医師、看護師とかは、そもそもピラミッドみたいなものがあって、これはまあある程度、職業上仕方無いと思うのですが、医師同士の性差別は、僕は感じませんでした。救急だからかもしれないですけどね。女性の医師も2人居るんですよ。2人とも子供さんが居て、授乳の時間になると授乳に行ったりされていました。それに対して、男性の医師達が凄く支えている、という印象は受けました。
【圡方宏史P】 本作の撮影時、名古屋掖済会病院の救急科センター長だった北川喜己さんが2023年4月に院長に就任した後、下から上がって来てセンター長になったのが女性で、その人はもともとは、名古屋掖済会病院に居られた人だそうです。

(2024年1月12日 シアターセブンにて取材)

(STORY)
救急車の受け入れ台数年間1万台と愛知県内随一。〝断らない救急〟を掲げる名古屋掖済会病院の救命救急センターを取材したドキュメンタリー。医局制度が無い救急科を志望する医師が少ない現状の中で、一体何が起こっているのか。カメラは新型コロナ第5波の下での救命救急センターを捉え、その課題を伝える。

(2023年/95分/日本)

配給 東海テレビ放送

© 東海テレビ放送

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