「NO選挙、NOLIFE」

2023年12月15日から京都シネマ、12月16日から神戸元町映画館、大阪第七芸術劇場で公開

面白いドキュメンタリー映画が公開される。大島新監督の「なぜ君は総理大臣になれなかったのか」「国葬の日」などの作品でプロデューサーを務めていた前田亜紀さんが監督した新作「NO選挙、NOLIFE」(ナカチカピクチャーズ配給)。主演は選挙取材で全国を回っているフリーライターで「絶滅危惧ライター」といわれている畠山理仁さん(50)。この道一筋25年、例えば2022年の参院選東京選挙区で、当選6人のところ候補者34人が立った選挙で、有力者候補だけでなく「全員取材」を敢行し、週刊誌とWEBで記事を発表したように、「世の中に決まったことはない!」が身上。映画は同選挙の18日間の畠山さんの睡眠時間2時間の取材活動から始まる。
 前田監督が驚くのは、候補者全員取材で、泡沫候補といわれる人にも平等に話を聞くこと。それも「なぜ立候補を?」というだけでなく「家族の話や趣味など」その人物の素顔を聞き出すことに力を入れる。候補者の多くは「いい機会」と畠山さんの質問に笑顔で対応する。62歳の男性候補者は「私は超能力者で、それを生かして政治をやりたい」と真顔で答える。街角に立った候補者を取材するときは、大体候補者一人で助手や協力者は誰もおらず、ゆがんだ候補者の名前が書かれた旗を畠山さんが直してあげたりする。
 選挙期間は18日で34人全員にインタビューし、写真と記事をまとめて記事にする作業はまた、一人でやるには大変で、睡眠時間が2時間というのもうなずける。そしてまた大変なのは選挙期間中の取材は大手の新聞や週刊誌の記者が多く、フリーという立場の畠山さんの立ち位置が微妙で、候補者事務所からクレームが付くこともある。むろん、キャリア25年だからそこは突っ切る畠山さんだが、取材の帰り道、「落ち込むこともある」という。「それでも弱い立場で、選挙に出て戦うというのは大変なこと。そんな候補者がぼく自身とダブってくることがあり、頑張らねばと思う」と述懐する。
 後半になって「そろそろこの仕事を辞めたい」とぽつりと漏らすが、奥さんからは「ほかの仕事ができないから今の仕事をやっているのでは?」といわれ息子からは「家では何をしているか分からないけど、外ではいい仕事をしているようだ」と励まされる。そして畠山さんは「卒業旅行」として、沖縄の9月知事選挙の取材に出かける。玉城デニー氏、佐喜真淳氏、下地幹郎氏の3人が候補者で、沖縄基地問題で揺れる大きな選挙。畠山さんは「ここは熱い」と精力的に動く。
 畠山さんは「黙殺〜報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い〜」(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。畠山さんの仕事はまだ続きそうな気がする。
写真は「NO選挙、NOLIFE」の一場面(C)ネツゲン
※この映画については、岩永久美さんも感想をアップしています。併せてお読みください

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