「道頓堀ロマネスク~夢はるか岸本水府の居た街~」
     2023年11月24日~26日
    12月1日~3日
道頓堀ZAZA
  
 NHKテレビ小説「ブギウギ」にも登場した、ピンクのパラソルを開け閉めしながら歌うOSK日本歌劇団のテーマソング「桜咲く国」。歌劇ファンだけではなく、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの試合でも私設応援団がこれを奏でて応援していた(2018年に廃止)ので、耳覚えがある人もいるかもしれない。
1930年、当時の松竹楽劇部(現・OSK日本歌劇団)が大阪松竹座で上演した「第5回春のおどり」で〝お披露目〟されたこの曲を作詞したのは岸本水府(作曲は松本四良)。メロディは広がっているけれど、この人物はあまり知られていない。という私も、田辺聖子が書いた「道頓堀の雨に別れて以来なり・川柳作家・岸本水府とその時代」(中公文庫)という本によって、名前と川柳作家だという程度の知識でしかない。資料によると1892年に三重県で生まれた彼は、新聞記者をするかたわら、1965年に亡くなるまで「川柳」の普及に情熱を傾けたという。ちなみに「川柳」とは「俳句」と同じように五・七・五で作るものだが、「俳句」のように季語を入れる必要がなく、それだけ表現の幅は広がるという。彼の代表作は、初代中村鴈治郎が「心中天網島」で演じた紙屋治兵衛を表した「頬かむりの中に日本一の顔」。句碑は道頓堀にある、うどんの名店「今井」の脇にある。また、公演を行った道頓堀ZAZAは松竹楽劇部の本拠地だった大阪松竹座がすぐ近くにあり、かつて「道頓堀五座」の1つだった中座の跡地にあるなど、ここで上演する意味も深い。
さて、本題に。元トップスターの桜花昇ぼるをはじめ、OSK日本歌劇団OG6人が出演。歌劇団公演を数多く手がけている吉峯暁子が作・演出。作・演出:吉峯暁子。ちなみに、吉峯はあの「マツケンサンバⅡ」の作詞も手掛けた人。ある意味で、水府との共通点も感じる。ストーリーは、記者として働きながら、川柳の同人誌を主宰する水府と彼を取り巻く人々を歌とダンスを交えながら描いている。「生涯」ではなく「『桜咲く国』ができるまで」を綴っている。ということで、いったんは作詞のオファーを断った水府が心変わりするきっかけが肝心なところなのだが、意外なほどあっさりと心変わりするのは? 苦悩とまでシリアスでなくても、「決意」といったものをもう少し描いて欲しい気がした。松竹楽劇部の再現シーン?は、この人数、空間ながらやはり見ごたえがあったが、そこから、ドラマとしての〈締め〉も欲しかった。いろいろ注文したが、水府という人物をクローズアップし、それを道頓堀で上演した意味は大きい。さらに練り上げて、再演してほしいと思った。
〈ストーリー〉カフェ「楼蘭」では若き川柳作家の岸本水府と仲間が川柳談義に気炎を上げていた。そんな水府らを温かな目で見守る「楼蘭」の女主人マダム麗子。麗子の妹、真澄は松竹楽劇部のレビューガールで水府とも顔なじみだった。ある日、水府に松竹楽劇部から「春のおどり」の主題歌作詞の依頼が届く。一度は自信がないからと断る水府だが、麗子と真澄に励まされ水府の心にも春が訪れる…

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