「シチリア・サマー」
2023年 11月23日
ある夏の日、2人の青年の身に起きた悲劇を描いた作品。事件をきっかけに差別や偏見と闘う非営利団体が生まれ、大きな流れに繋がった出来事の映画化で、監督はイタリアの俳優ジュゼッペ・フィオレッロ。フィオレッロはジュゼッペ・トルナトーレ監督作品などにも出演し、プロデュースも脚本もこなす人物で、今回が長編第一作となる。
舞台は1982年のシチリア。ジャンニはバイクの整備工場で働く17歳。同性愛者だということが周囲に知られて、露骨に差別を受けるようになるが、花火工房の息子ニーノとの出会いが、ジャンニの運命を変える。
映画前半では主人公を取り巻く町の空気が丁寧に描かれる。異端を嫌い、自分達と違う、と言うだけでジャンニを批判する者や、遠巻きに差別を傍観する者・・・脚本はよく練られていて、人物1人ひとりの人格まで分析的に描かれていく。
その一方でフィオレッロ監督は、自分の心の声に従って生きるジャンニを、どこにでも居そうな、ごく普通の青年として演出する。テーマが重くても作品が暗くなっていないのは、ジャンニ役とニーノ役の俳優2人から、自然なさわやかさが引き出されているせいだ。
現在公開中の「蟻の王」も実話の映画化で、60年代イタリアを舞台に、同性愛者に嫌悪する異性愛者たちが悲劇の引き金を引く。9月に公開が始まった実話ベースの「福田村事件」のシナリオは、言葉の違いを鍵にして、人間の醜い差別意識を露呈させる。
「違う」ということは、そんなに悪いことだろうか。多様性についての感心が世界的に高まる中、時代の指標になる作品が続々と制作されている。差別や抑圧の無い、平等な未来。フィオレッロ監督は、そんな未来を信じて青年達の物語に託した。本作は本国でスマッシュ・ヒット。ナストロ・ダルジェント賞(イタリア映画記者組合による賞)の新人監督賞も受賞した。
(2022/イタリア/134分)
配給 松竹
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