「キラーズ・オブ・ザ・ムーン」

2023年10月20日全国公開

206分の大作で、正直言って観るのをためらってしまいそうだが、マーチン・スコセッシ監督、主演・ロバート・デ・ニーロ、レオナルド・デュカプリオという〝ビッグネーム〟がそろうと、観ないわけにはいかない。そして、やっぱり正解!だった。
汽車から降り立ってくる血気盛んなアーネスト。デュカプリオというと、やはり「タイタニック」(1997年)のジがあるが、考えてみるとスコセッシ監督作品では「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002年)、「アビエーター」(2004年)、「ディパーテッド」(2006年)など、一癖も二癖もある人物を演じている。今回は、顔はちょっとこわもてながら、実は叔父を頼りに生きて、言うがままになり、ときには弱みもみせる男。先住民女性と結婚するのだが、それもオイルマネー相続のため? 本当に惚れたのか、そして病弱の彼女への愛を貫くのか?という、よくも悪くも人間臭い人物を演じている。
一方、デ・ニーロとマーチン・スコセッシ監督のコンビと言えば、私には、なんといっても「タクシー・ドライバー」(1976年)、「レイジング・ブル」(1980年)。狂気さえ秘めた主人公を、と呼ばれた役のために実際に痩せたり太ったりする「デ・ニーロ・アプローチ」によって、なりきってみせた。この映画の最初の登場シーンは一瞬わからなかったほど、細身の老人。さすが肉体的には衰えているものの、おだやかにふるまう裏側には怖さを潜ませ、それがだんだんと明らかになっていく…。
そんななかで、先住民の妻を演じたリリー・グラッドストーンは新鮮。ほぼ全編にわたって、物静かなたたずまいで糖尿病を患っている設定でさらにそれがきわだっていく。しかし、ある事(ネタばれになるので)だけは毅然とした決断をする、この作品のなかでは特別な存在として描かれている。
実話を基にしたこの映画、まるで1冊の分厚い歴史もの、推理ものを読んでいるような感覚。複雑に入り組む人間関係、虚々実々の駆け引き。世の中には、完璧な善い人、悪い人はいないものだと、つくづく感じさせられた。

〈ストーリー〉1920年代、アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)は、地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)を頼ってオクラホマへと移り住む。そこは先住民オセージ族の保留地で、石油資源が発見されたことで豊かに暮らしていた。ウィリアムはオセージ族のモリー・カイル(リリー・グラッドストーン)と恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が次々と起こる。ワシントン D.C.から派遣された捜査官が捜査に乗り出し、驚愕の真実が隠されていた…。

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