「アナスタシア」
2023年9月12日~10月 東急シアターオーブ
10月19日~31日 梅田芸術劇場メインホール
※主要キャストはダブル、トリプルキャスト。そのなかで、アナスタシア・葵わかな、ディミトリ・海宝直人、グレブ・堂珍嘉邦、ヴラド・大澄賢也、リリー・朝海ひかる、のバージョンを観劇。

歴史に残るヒーロー、ヒロインには、いろいろな「伝説」が残る。奥州平泉で自害されたとされる源義経は生きていて、モンゴルに渡りジンギスカンになったという「義経伝説」が有名だが、プレスリーも生きているとまことしやかに伝わる都市伝説も。そして、このミュージカルのヒロインとなった、アナスタシア(アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ)にも「伝説」がある。
最後のロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の第四皇女だった彼女は、1917年の二月革命で成立した臨時政府によって家族とともに監禁され、翌年に17歳で銃殺されたといわれる。その一方で、ロシアを逃れて生存しているという説も根強く残り、それを捜索する動きのなかで〝偽アナスタシア〟が続出したと言われる。私がそんな彼女の存在を知った最初は映画「追想」(1956年)をテレビ放映で観た時。イングリッド・バーグマンがアナスタシアを、ユル・ブリンナーが彼女を探すロシアの将軍を演じた作品で、こんな「伝説」があったのかと興味を抱いた。そして次は、アニメ映画「アナスタシア」(1997年)。こちらは実在した怪僧ラスプーチンが策略をめぐらすアニメらしい着想のファンタジー作品だった。そのイメージを持ったまま、このミュージカルを観劇。〝夢あふれるプリンセス〟が描かれているとイメージしていたのだが、いい意味で予想が覆された。
「死んだはずの人物が生きている!?」というある意味で奇想天外のエピソードを、文芸色が濃いミュージカルになっている。脚本はコロナで亡くなったテレンス・マクナリー。パリで貧しい暮らしをする記憶を喪失した少女が、大金をもくろむ2人の男に見いだされ淑女になっていくあたり、「マイ・フェア・レディ」(「ピグマリオン」)にも通じるところがあり、しかもそれが〝ホンモノの淑女〟というのだからおもしろい。映像がメインの女優というイメージの葵だが、高音も伸びやかで強弱を駆使して心情を表現する歌唱力。ロシアからパリへ向かうなかで、さらに自我に目覚めていく変貌ぶりがよくわかる。
そうしたドラマチックな情景を浮かび上がらせるのは鮮やかな映像を駆使したセット。なかでも、スピーディーに流れる風景で疾走感を表現する列車の客席シーンは見事。
文芸色をさらに濃くして格調高くしていうがマリア皇太后を演じる麻実れい。いまや「宝塚OG」という形容詞がいらない女優。そのたたずまいは、ヴァネッサ・レッドグレイブとダブってみえた。また、リリーを演じた朝海ひかるが、ふと力を抜いた仕草、セリフ回しで笑いもとり、洒脱さが光った。
そしてラストは…。ちらっと「ローマの休日」を思い浮かべたが、それよりもリアルなハッピーエンドが待っていた。
〈ストーリー〉20世紀初頭、帝政末期のロシア。ロシア帝国皇帝ニコライ2世の末娘として生まれたアナスタシアはパリへ移り住み、家族と幸せに暮らしていたが、ボリシェビキ (後のソ連共産党)の攻撃を受け、一家は滅びてしまう。パリに住むマリア皇太后は、アナスタシアを探すため多額の賞金を懸ける。それを聞いた2人の詐欺師ディミトリとヴラドは、アナスタシアによく似た記憶喪失の若い女性を利用し、賞金をだまし取ろうと企て3人でパリへと旅立つ。ロシア政府はボリシェビキの将官グレブにアナスタシアの暗殺命令を下す。マリア皇太后に仕えるリリーの協力を得て、アナスタシアは皇太后と会うが…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA