コロナ禍で失くしたもの、生まれたもの。2023年5月に上演された舞台「セレンディピティ ~素敵な偶然~」
2023年5月、北九州芸術劇場中ホールで上演

劇団青春座5月公演「セレンディピティ ~素敵な偶然~」が上演された

北九州・小倉を拠点に長く活動を続けるアマチュア劇団がある。「劇団 青春座」だ。78周年となる長い歴史を持つこの劇団で今年5月に「セレンディピティ ~素敵な偶然~」が上演された。作者は、私、ライター・脚本家の源 祥子である。
普段は様々なジャンルで<書く>仕事をしている私。劇団青春座で自分が書いた脚本を上演してもらえたのはこれが2作目だ。1作目は2019年上演の「おばちゃん Glowing Up!」で、大阪のオバちゃん3人の再生の物語。そして、今年5月に上演された2作目となる「セレンディピティ ~素敵な偶然~」のテーマは「コロナ禍」。劇団の代表を務める和田正人氏から「コロナ禍とはなんだったのか。忘れないようにしっかりと芝居として残しておきたい」とのオファーをいただき、創った物語だ。

母娘3世代のコロナ禍での変化と葛藤、決断を描いた物語

とある地方にある、昔ながらのたい焼き屋「オカムラ」。小さいながらも常連をがっちりと掴んだ店である。ヒロインの律子は、母・鈴子が守ってきたこのたい焼き屋を手伝いながらも、モラハラ夫から「あんな古臭いたい焼き屋、店を閉めてしまえ」と日々言われ続けることで、どこかで店を恥じてもいる。コロナ禍初期でも「オカムラ」は通常通り店を営業していたが、ある日「素手で掴むたい焼き、不衛生」「食べたらコロナになる」の中傷ビラが何者かの手によって町で配られていることを知る。鈴子は、常連客・風香の提案で店前にベンチを置き、活性化を考えるが、普段から「日常を変える」ことを極端に怖がる性格の律子は、それをよしとしない。だが、店に対する中傷はさらに酷くなって……。
というのがおおまかなあらすじ。ここに、律子の娘の高校生・なるの<マスク外せなくなってしまった問題>や、なるの同級生・雷音(らいおん)との淡い恋物語、雷音の親のネグレクト問題もからみあい、物語が進んでいく。もちろん、マスクやトイレットペーパー買占め騒動や、コロナで突然メジャーになったリモートワーク、コロナ陰謀論などの話題も取り入れた。私たちはコロナ禍でなにを考え、なにを改めて感じたのか。それを念頭に入れながら、物語を紡いだ。
コロナ禍の話なので、演者さんたちは劇中ほぼマスク姿での熱演。慣れないスタイルゆえ、普段の芝居より気苦労も多かったと思うが、2日間の公演は無事幕を下ろした。私も小倉入りし、客席でお客様と一緒に観劇。1幕と2幕の間の休憩時間では、反応が気になりお客様の声にこっそり耳をすませていたのだが「ビラの犯人は誰?」と熱心に考察される方が多く、「昨今の考察ブームがここにも……」と感じたものである。上演後に大きな拍手をいただき、<面白かった!>の声がお客様から聴けたときは感無量だった。

小倉市民に愛され続けるアマチュア劇団「劇団青春座」

現在、青春座の舞台が主に上演されるのは小倉北区にある北九州芸術劇場・中劇場で、その客席数はなんと700席。自分の書いた脚本がまさかこんな有名で大きな劇場で上演されるとは我ながら驚きだが……。いまこのくだりを読んだ読者の方の中には「そんな立派な劇場でアマチュア劇団が公演して、お客さんは来るの?」という疑問を抱いた方もいらっしゃるかもしれない。ところが、来る。いや、いらっしゃるのだ、お客様は。「青春座の公演を見るのが年に2回のお楽しみ」と話すお客様が座席を埋める。つまり、地元のファンをがっちりと掴んでいる劇団なのである。
青春座の創立は1945年(昭和20)。2023年で78周年となる長い歴史を持つ劇団のこれまでの公演実績は、実に240回以上。5月の春公演と11月の秋公演が劇団の定番である。
アマチュア劇団、と名乗ることからわかるように、青春座の劇団員たちは皆仕事を持っている社会人だ。もしくは主婦であったり学生であったり(高校生以下の場合は入団に保護者の許可が必要)。つまりは「芝居で飯を食うことを考えない」というのが大前提なのである。これはなぜか。
「演劇は身近なもの。観劇するのはもちろん、役者として演じることや裏方として参加することは、本来誰でも気軽に出来るものであるべきはずなんです。そこに壁は無い。仕事をしているから出来ることだ、という思いもあります。だからアマチュアが良いし、アマチュアでいいんだと考えています」(劇団代表・和田氏、以下同)
青春座では「郷土シリーズ」「現代シリーズ」の二つを柱に、創立以来毎年公演を実施している。青春座のアイデンティティは「地域」。「北九州市をはじめ九州・山口の題材を掘り起こしていくことや、地元出身の作家を起用していくことが、青春座の存在理由で、これは歴代の代表者の考えと変わりません」

郷土シリーズとして「無法松の一生」「小倉祇園事始」「杉田久女」「小倉城の女たち」「白蓮と伝ネム」「ゼロの焦点」「わるいやつら」「若戸大橋物語」「松本零士物語」「シーナ」「風花帖」などがこれまで上演された。
一方の「現代シリーズ」は、「演劇人は常に社会の動きに敏感であるべき」という考え方で、さまざまな社会現象を検証するために上演される。私が書いた2本は、この現代シリーズに該当する。

コロナ禍で痛感した「あたりまえのありがたさ」

劇団には、コロナで1年間公演を開催できなかったという苦い経験がある。が、2021年より公演を再開。いまは「あたりまえに幕が上がること」の素晴らしさを和田氏はもちろん、劇団員全員が痛感しているという。
「コロナが発生した2020年は青春座75周年でした。それなのに、コロナ禍で記念事業や記念公演をすべて中止にせざるを得なかった。ただし、2020年8月の野外公演だけは実施しています。『北九州ページェント 和太鼓と演劇のコラボ』で、これは北九州市が2020年に『東アジア文化都市』に指定され、さまざまな事業が中止や延期となる中、野外ということもあり何とか開催できたという理由があります」
その後、2021年5月には1年半ぶりに北九州芸術劇場中劇場の幕を開ける事ができた。
「あれほど嬉しく思ったことはなかったですね。どれほど、『あたりまえの日常』に感謝したことか……。その年の11月、翌年も5月11月、そして今年の5月と公演ができ、少しずつコロナ以前に戻りつつあることを実感しています」

2025年には創立80周年。青春座は役者も裏方志望者もいつでもウエルカム

2025年には創立80周年を迎える青春座。コロナ禍の渦中にあった75周年のときには出来なかったことも含め、それに向かって劇団は現在いろんな催しを計画中だそう。
「これからも、これまで同様に、地元の題材を掘り起した作品や、地元ゆかりの作家による作品の上演、過去に上演した素晴らしい作品の再演も予定しています。地元にこだわり、アマチュアにこだわって劇団青春座は前に進んでいきます」

地域に根差し、愛される劇団青春座の次回公演は2023年・11月25日(土)と26日(日)。私の脚本の師匠である柏田道夫先生が執筆した「猿が翔んだ!~石原宗祐物語~」が上演される。なお、劇団はいつでも「劇団員募集中」である。役者だけではなく、舞台美術などの裏方志望でももちろんOK。気になる方はお気軽にgekidanseishunza@gmail.com までメールを。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA