松竹ブロードウェイシネマ「ホリデイ・イン」
2023年10月6日公開

ニューヨーク・ブロードウェイの舞台(主にミュージカル)が映画館で楽しめる「松竹ブロードウェイシネマ」。それも大ヒットやロングランを続けているような超人気作品ではなく、情報は伝わっているけれど、なかなか観る機会がないものも上映してくれるのは、うれしい。今回の「ホリデイ・イン」もそう。
ピング・クロスビーとフレッド・アステアが主演した1942年のミュージカル映画「ホリデイ・ イン(邦題・スイング・ホテル)」(1942年)が舞台化(2016年から17年)されたのは知っていて、気になっていた。「スイング・ホテル」と、その楽曲を作った音楽家のアーヴィング・バーリンは知らなくても、「ホワイト・クリスマス」や「イースター・パレード」といったメロディーは多くの人も聴き覚えがあるはず。さらに、この舞台には、バーリンがアステア主演「トップハット」(1935年)のために作曲した「チーク・トゥ・チーク」(頬よせあって)も印象的に使われ、さらに明るく楽しく心動かされる〈往年のミュージカル〉の空気が楽しめる。
物語の設定は、20世紀半ばのアメリカ。とはいっても「古き良きそのまま」というわけではなく、ゴードン・グリーンバーグ(演出も担当)とチャド・ホッジが執筆した新たな脚本は、「現代」を意識したアレンジが随所にみられる。例えば、ジムのコロラド州の自宅で働く女性。映画では「風と共に去りぬ」のマミーのような太ったアフリカ系アメリカ人のお手伝いキャラクターが登場するが、ここでは世話好きの白人女性が〝狂言回し〟的な役割を担っている。女性ダンサーのなかには多民族性を意識しただろうアジア系俳優も。こういった視覚的なこともあるが、主要な4人の人物の描き方がドラマをいっそう明快にしている。まず、テッドは魅力的な女性に言い寄り、ときには友人から奪ってしまうという典型的なモテ男。そんな危ないところに魅力を感じて実直なジムの求婚を断り、さらにテッドから金持ちに乗り換える…というルイーズ。典型的なブロンド美女と、あえて「ステレオタイプ」にすることで、かえっておかしさを醸し出している。ちなみに、ハリウッド映画に出演するリンダへお手伝いの女性が「ヴェロニカ・レイクのサインをもらって!」と頼むセリフがあり客席から笑いが起こる。1940年代にアラン・ラッドとのコンビで一世を風靡したブロンド美女だ。一方、ジムは華やかなポジションを捨てて農場で暮らし始めるが、やがてそれでは物足らなくなり、「劇場」を作るというあたりは、現代人にも通じる心境の変化。なかでも、映画版よりも輪郭をくっきりとさせたのはリンダ。映画版ではスターを目指してテッドやマネージャーに売り込む夢多き女性。舞台版ではかつてはそんな夢を持っていたが、いまはジムの家の近くの学校で教師をつとめているという設定。「ハリウッド映画出演」というおいしい話にも躊躇する冷静なところも持ち合わせている。
このように、現代の人々が観ても「無理」がないようにアレンジ。一方、テッドがポケットにしのばせた癇癪玉を地面に投げて火花を散らしながらのタップダンスは、アステアの妙技を踏襲しているという映画へのリスペクトも。まだまだ暑さが残るなか、「秋のホワイト・クリスマス」も胸に沁みる。
〈ストーリー〉舞台俳優のジム(ブライス・ビンカム)はテッド(コービン・ブルー)とルイーズ(ミーガン・ローレンス)と組んでショービジネスで人気を得ていた。ルイーズと婚約し、エンターテイメントの街から コネチカット州の農場への移住を決意していたが、ルイーズはテッドに心奪われる。華やかな生活とは一変しているところに、多才で活動的な農場の元オーナーの娘であるリンダ(ローラー・リー・ゲイヤー)と出会う。そこで、農場の家をホテルに改築し、感謝祭、独立記 念日、バレンタインデー、クリスマスなど、祝い事の度にショーを披露することを思いつき、ゴージャスな催し物を展開していく。やがて、ジムとリンダの間に特別な感情が芽生えるが、ジムの親友であるテッド(コービン・ブルー)が現れ、テッドのダンスパートナーとして、リンダへハリウッド行きの話を持ち掛ける。
写真・テッド、リンダ、ジム(左から)©Joan Marcus

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